「質に入れて頭金にするなら、最初からそうおっしゃってくれれば良かったのです」
質屋から出ると、ソードは申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい」
確かに、言い方は悪かった。しかしだからって、いきなり殴らなくても…。
あんな綺麗なトリプルパンチ、アンパンマンくらいでしか見たことが無かった。
エリアが訝しげに訊ねる。
「それで、わざわざ一人を担保してまで向かう場所ってどこなワケ?」
そう、俺たちは、リナを人的担保としてあの宿屋においておくことを条件に返済をしばらく待ってもらい、今こうして3人で行動しているのだ。
ちなみに、担保役選出時はリナとソードで一悶着あった。だが最後はリナの「私が原因なんだから私が残る!」というまるで逆アシタカのような台詞に根負けし、ソードがその役を譲ることとなった。
俺は、迷うこと無く言った。
「セリヴェルに飛んでくれ」
二人は驚愕の形相を示した。まあ、予想はしていたが。
「セリヴェルってまさかアンタ…」
「あのカジノタウンですか……」
セリヴェル。通称、《カジノタウン》。
かつては港町として栄え、今では世界各地に点在するカジノ施設の中でも群を抜いた規模のカジノを保有する町としてその名を馳せている。
「まさかとは思いますが、私たちの身銭をはたいたそのお金を、カジノに使う気では……」
「はい」即答。
「帰ります」「帰る」即答。
おい!
「待ってくれ!勝算はある!」
「イカサマ無しでですか?」「マジ…?」
二者二様の反応。
「イカサマ…ではないな。統計学を用いた歴とした必勝法だ」
ちなみに嘘だ。イカサマと言われればそうなる。
「であれば、試す価値はあります。しかし、用意した分の半分は保険として取っておきます」
「おっけ」まあ、大丈夫だ。腐っても勇者一行。なかなかに良い装備を持っていたので、それなりの金額を借り受けることができた。半分もあれば十分だろう。
エリアが言う。
「じゃ、いいのね」
「任せた」
実は結構楽しみなんだよなあ、この、転移魔法。
じゃあ、行くよーと前置きし、
「リンク・セリヴェル!」
俺たちは、カジノ《ゴールド・ラッシュ》の中へとやってきていた。
転移魔法の後に何があったのかは、俺の名誉のために明言を避ける。
ただ、今も若干気分が優れない、とだけ。
そんなことはお構いなしに、彼女たちは先へ先へと進んで行く。ひどい。
「ほえー」
「いつ来ても、邪念の巣窟ですね……」
確かに、実際に来てみるとすごいところだった。
人々の浮かべる表情はどれも金に溺れた者のそれであり、喜び勇む者もいれば絶望に打ち拉がれるものもいる。
巨大なピラミッドのような外観もそうだったが、その内装も、贅の限りを尽くした成金趣味丸出しのもの。どこを見ても金、金、金。
まさに、ゴールド・ラッシュだった。
その迫力に圧倒されつつ、目当てのゲームを目指す。
「これだ」
しばらく歩き、目当てのゲームの前へと到着した。
「これは…なんて野蛮な…」
「モンスター闘技場ね…」
モンスター闘技場。
毎回ランダムに選出されるモンスター4匹の中からか生き残りそうなモンスターを一匹選び、メダルを賭けるゲーム。モンスターにはそれぞれ倍率が表示されており、そのほとんどは、倍率が高ければ高いほど勝ち残る可能性は低い。
「半分だったか。エリア、10万G分メダルに換金してきてくれ」
「りょーかい」て、あれ?あたし自己紹介とかしたっけ?
言いつつ換金しに行く。あぶねえ。そういやまだ向こうからは紹介されてないんだった。
ソードが心配そうな眼差しで見つめる。
「そのう、本当に大丈夫なんでしょうか」
「任せてくれ」
俺には、自信があった。
まだ出会って間もないが、彼女もきっと俺がただの博打打ちでないことを分かってくれている……はずだ。
「はい、どーぞ。メダル1万枚」
巨大な箱に詰めてメダルを持って来るエリア。小さな体には不釣り合いなその大量のメダルに、少しにやける。
彼女はむっとして、俺にそれを渡す……
って重い!思いの外重い!
心の中で上手いことを言っても誰もほめてはくれなかった。
彼女はつん、とそっぽを向くと、
「さーて、お手並み拝見といきましょうか」
ソードは黙って見ている。こちらも、お手並み拝見、と言った具合か。
今回の出場モンスターは、こうだった。
▼今回のモンスター闘技場の出場モンスターは……
▼妖怪墓荒らし ×3.4
▼スライススライム ×15.1
▼バナナマシン ×2.2
▼地獄戦車 ×1.3
▼以上となっております!皆様、お楽しみください!
所謂、クソ配牌だった。
だが俺は、迷うこと無くスライススライムに500Gベット。
「そこ、ですか…?」
「ええ!?私ならバナナマシンかなー。あいつ、自分を固くして防御力上げるんだよね」
そうなるのも無理はない。まあ待て。
結果は……
▼勝ち残ったのは、バナナマシンです!
「ほらー!だから言ったじゃん!あたしってギャンブルの才能あるカモ」
「外れて、しまいましたね」
俺は黙ってゲームから離れる。
近くにあった、スライススライムレースの、1―2の×10――順番を問わず、一番と二番のスライムが一位と二位でゴールしなければならない――に、残りのメダルを全てベットする。
ちなみにスライムは8匹いる。
「血迷ったの!?あたしに任せときなさいって!」
ソードの方は、ただ驚いた表情を浮かべるばかり。
俺は、レースの行方を見守った。
▼スライススライムレース、間もなくスタートです……
▼スタート!
▼3番と6番がスタートダッシュを決めました!
▼その他はまずまずの滑り出し。
▼おおっと、2番が転倒!しかし諦めません!
「あー!見てらんない…」エリアは目を覆う。
レースは進み、俺の選んだ1番は中間、2番は最後尾から2番目を走っていた。
▼レースは最終直線を迎えました!どのスライムが一位なのか……おおおおおおっと!ここで2番が猛チャージ!
俺の口角があがったのを、ソードは見逃さなかった。
▼最後の悪あがきかーーー!どんどん抜いて行く!どんどん抜いて行くーーー!っと、その隙に、1番も猛チャーーーーーージ!!これまたどんどん抜いて、どんどん抜いて―――
結果は、2番が一位、1番が二位。
見事に、穴を当てた。
同じ手順をあと三度繰り返し、その日は約400万Gを手にして帰った。
翌日、新聞の一面に小さくこんな記事が載った。
《妖怪カジノ荒らし》現る!
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