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除染契約に具体的な数値目標なし

6月14日 18時00分

野津原有三記者

福島県内の市町村では、原発事故の影響で広がった放射性物質を取り除く「除染」が各地で進められています。
除染は住宅の庭や農地の表面の土を剥ぎ取ったり屋根や壁を拭き取ったりして放射性物質を取り除く、つまり、できるだけ放射線量を下げるのが目的の作業です。
ところが、除染を進める国と福島県の市町村の90%近くが、作業を行う業者と結んだ契約にどこまで放射線量を下げるかという具体的な数値目標を盛り込んでいないことがNHKの取材で分かりました。
なぜ、盛り込まれていないのか。
その影響は。
社会部の野津原有三記者がお伝えします。

除染の契約書には…

「デッキブラシやタワシで丁寧に洗浄する」。
「ゴム手袋をはめた手やスコップで除去する」など、NHKが入手した除染の契約文書には作業ごとに使う道具が事細かく指定されています。
ところが、どこまで放射線量を下げるべきかという数値目標は、どこにも記載されていませんでした。
NHKは国と福島県内の32の市町村に、ことし4月までの業者との契約内容について情報公開請求やアンケートを行いました。
その結果、国と、全体の90%近くに当たる28の市町村が、契約に具体的な数値目標を盛り込んでいないことが分かりました。

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なぜ目標はないのか、その理由は

数値目標を設けなかった理由について、環境省は「除染は国内に例がない、初めての経験。目標を定めるのが極めて困難な、特殊な状況にある業種だと考えている」と説明しています。

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「ずさんな作業を生む」

数値目標がないことは現場の作業にどう影響しているのか。
長年、原発で働き、今は除染に携わっている男性は「線量という明確な一定の線が明確になっていない。そういった明確な指示があればね、作業の仕方も違うし、作業に対する情熱もたぶん違ってくると思うんですね」と、作業の質の低下につながっていると証言しています。
特に屋根の除染では、放射性物質を取り扱う現場の常識では考えられない、ずさんな作業も見られるといいます。
男性は「原発での作業だったら、1回拭き取ったらもうこの面は使えないんです。それが今はもう1回やって、2回やって3回ぐらいは普通じゃないですかね。もう汚染拡大してるようなものなんで、結局、ここの汚染がこっちにくっつくというような感じは受けますね。ただ時間過ごせばいいくらいの感じが実態です。こんな作業していたんでは、きれいにならないなっていうのは実感しますよ」と話しています。

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独自の取り組みを始める自治体も

こうした事態を防ぐ対策の1つとして、契約に数値目標を盛り込んだ自治体があります。
川内村は、避難した住民の帰還をいち早く進めるためには、明確な目標を目指して除染を行うことが必要だと考え、契約書には、1時間当たりの放射線量を0.23マイクロシーベルト以下まで下げるよう明記しました。
役場の担当者は「業者も数値目標がないと除染をやりにくいと思った。
除染をするにもやはり線量を気にして、線量を下げるという意識が出てくるでしょうから。
それがいちばん、除染の最大の目標なんで」と話しています。
さらに村は、業者が目標を達成できなかった場合、なぜ下がらなかったのか、その理由を報告させています。
こうした取り組みが業者の意識に変化をもたらしたといいます。

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受注した業者の元担当者は、「一とおりの作業をやればいいという意識と、問題をクリアしなければならない、あるいはクリアできなければ原因を突き止めろという違いは相当大きい。業者側にとって細心の注意が必要になる」と話しています。
こうした事態について環境省は、「業者に対しては、できるかぎり放射線量を下げるよう求めている。目標を設けると、それよりも下げようという業者の意欲を逆にそいでしまうおそれがある。また、抜き打ち調査も行って作業が適正か監視している」と話しています。

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「除染作業の改善を」

公共事業の問題に詳しい慶応大学の土居丈朗教授は、原発事故から2年以上がたった今、国や自治体が除染の在り方を検証する時期に来ていると指摘したうえで、「除染の場合は、ただ作業すればそれでいいというわけではないですね。放射線量を下げるというところまできちんとやって初めて作業をした意味があると。放射線量についての数値目標めいたものを何も示さないで、ただ除染をしていればそれでいいというやり方で予算をつけていれば、いくらあってもお金が足りないということになりかねません。今の時点で、やり方がよかったかどうか検討して改めるべきところは改めてもらいたい」と話しています。

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検証することが必要

対策を進める川内村の横田正義除染対策係長は、「とにかく線量を下げていくという目標が出来てくると思う。そういったものを積み重ね、放射線量が下がった割合、低減率を確保できているのかなと思います」と話しています。
放射線量がどれだけ下がったかを示す「低減率」は、川内村では400戸の住宅の平均はおよそ57%でした。
NHKが福島県内の4000戸以上の住宅の低減率を独自に集計すると、平均でおよそ47%。
川内村が10ポイント程度高くなっています。
元の放射線量や地形の違いなど、ほかにも放射線量が下がるさまざまな要因がありますが、川内村では、数値目標があったことで効果を高められたと分析しています。
川内村のような動きは、福島市など3つの自治体が契約に数値目標を盛り込み、次第に広がり始めています。
数値目標さえあれば、必ず効果が上がるとまでは言えませんが、目標があるからこそ、なぜ放射線量を下がらないかその原因を探し、改善につなげることもできると思います。
除染はすでに1兆円を超える巨額の費用が投じられ、今後もどれだけの費用が必要になるか見通しがついていない巨大事業です。
長期間にわたって除染を効果的に進めていくためには、作業の進め方を検証し続けていくことが必要だと思います。

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