訴えられても、きちんとした理由があり、手順を踏んでいればそう簡単に負けることはないですし、最悪、裁判で負けそうならば、給料2、3年分を払えばなんとかなりますよという話です」(『BUSINESS LAW JOURNAL』2010年8月号より)
たとえ100人の社員を不当に解雇しても、訴えてくる人間は少ないのだから、適法にやってコストをかけるより、違法にやったほうが「やり得だ」と言っているのである。
これが、今の日本の実情だ。
2、3年分の給料を払うというのは、経営者側の弁護士の発想としてはマシなほうだろう。最近では、不当な解雇でも3カ月分以上は支払わない、ひどい場合はひと月分だけ、と断固主張する弁護士も増えていて、紛争が長引くケースが多い。
現実の実務はもっとシビアだと思っていい。
実際、紛争のテクニックとして横行しているのが、「無茶な争いをふっかける」やり方だ。
たとえそれが違法だとわかっていても、ひたすら違法な行為をごり押しする。残業代を払わない。払わないから違法だと訴えられる。訴えられても払わない。判決が出ても払わない。強制執行の直前までひたすらごねるという戦略。
労働者の側は、会社に比べてお金も時間も限られているので、途中であきらめてしまうのを経営者側は待っているのだ。
たとえば、牛丼チェーン店の「すき家」(株式会社ゼンショー)の事例が有名だろう。
すき家はアルバイトの残業代を一切支払っていなかったのだが、その理由を「アルバイトは業務委託だから」だと主張した。誰が見ても完全に無茶な主張である。これを続けて、労働者側の根気負けを狙うという手段に出たのだ。
だが、それはおかしいと思ったアルバイトの若者たちが首都圏青年ユニオン(ユニオンとは地域別につくられた個人加盟の労働組合のこと。ユニオンについてはあとで詳述する)に加盟して、「予想以上に」法律上の正義を追求してきたため、結局、すき家は裁判所で和解せざるをえなくなった。
とはいえ、それまでには何年もの月日が流れている。他店も含めれば、「支払われなかった」残業代は莫大な額になっているだろう。
「根気負け」を狙う使用者側の戦略が、いかに法律上の正義を捻じ曲げるのかが、よく理解できる。
〈次回に続く〉
NPO法人POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍(社会政策、労働社会学)。日本学術振興会特別研究員。1983 年、宮城県生まれ。2006年、中央大学法学部在籍中に、都内の大学生・若手社会人を中心にNPO法人POSSEを設立。年間600件以上の労働相談に関 わっている。東日本大震災の被災地では仙台市と共同で被災者支援事業を行う。過労死防止基本法制定運動を支援。 著書に『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』『マジで使える労働法 賢く働くためのサバイバル術』、共著に『ブラック企業に負けない』などがある。
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