あるいは、入社した会社で長時間のサービス残業を求められる。休日に出勤を命じられることもある。それでも「自分は甘い」と思って頑張ってきたけれど、もう身体も心も限界だ、といった相談。
こうした状況に追い込まれても、私たちは「自分が悪い」「どうしようもない」としか考えられない。どんなにそれが違法な状態でも、相談に来る若者が「会社が悪い」と考えていることは、めったにない。
だが、みんな「おかしい」と思っているはずだ。
いくらなんでも、日本の「労働」には無理がある、と。
最近では、ようやく「ブラック企業」という言葉が世の中に広がってきた。若者のひどすぎる職場環境が、やっと社会問題になってきたのだ。
希望の一筋の光が、見えてきたようにも思える。
しかし、マスコミの論調は、「ブラック企業を見分けろ」というものばかりだ。
私自身も、昨年『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書/2012年)という本を世に出してから、そうした「見分け方」の取材をひっきりなしに受けている。
「危ない企業はどこか」「相談に来た人が所属する企業の実名を教えてほしい」と。
正直、「見分け方」ばかりの論調には疑問を感じている。
単純に考えてわかることだが、いくら努力したところで、見分けるのには限界があるだろう。どんなに対外的に「いいこと」を言っていても、その会社に入ってみるまでは、わからないことだらけだ。
また、見分けたところで、ブラック企業からしか内定が取れなかったら、結局、入社するしかない。「ブラック企業からしか内定を取れなかった人間は就職するな」とでもいうのだろうか。
「見分けろ」という議論は、下手をすると、「見分けないやつが悪い」「ブラック企業にしか入れないやつが悪い」と、ブラック企業を正当化することにもなりかねない。
これでは、せっかくブラック企業が社会問題になってきたのに、私たちの苦しさは何も変わらないではないか。
それどころか、「見分けろ」という圧力が、さらなる負担となって私たちにのしかかってくる。
じつのところ、「見分け方」などという議論はまったく不十分なのだ。
それは、何も新しい光を私たちに与えてくれはしない。
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