義務教育でも労働法(労働関係の法律一般)なんてものはまったく教えないし、契約に関する教育も一切ない。何が権利で何が義務であるのか、私たちは驚くほど知らない。
それは、交通ルールを知らないままに自動車を運転しているようなものだろう。
これまでの日本では、就職は「就社」とも呼ばれ、学校から会社に所属が変わるだけのような印象が持たれてきた。
「○○大学の学生」から「××社の社員」へ、といった具合に。
2003年の労働基準法(労働法のひとつで、労働条件の最低限度を示したもの。いわゆる「労基法」)の改正までは、大企業であっても、雇用契約書を取り交わす慣習なんてものはなかった。就職は「契約」ではなく、その組織に「入る」ことを意味していたのである。
その結果、契約に基づいて働いているという感覚が希薄になり、私たち労働者はなぜ自分がこの労働をこの条件・待遇で引き受けているのか、よくわからなくなってしまっている。
しかし、就職とは本来、「労働市場で自分の労働力を販売すること」を指すのであって、けっして学校の延長線上にあるようなものではない。
就職は、会社と労働者の間で取り交わす「約束」なのであり、「労働契約」を結ぶことなのだ。
契約を意識しない(させない)こうした「就社の文化」は、これまで、会社と労働者との間の強い信頼関係によって成り立ってきたと言えるだろう。
契約の存在を知らないで済む世界は、ある意味では「幸せな世界」だったのかもしれない。ところが、長く続いたこの信頼関係も、最近では「ブラック企業」などという言葉が象徴するように、崩れつつある。
そして、いざ首切りやリストラ、長時間の時間外労働などで会社と揉め、「紛争」というようなことになれば、信頼があるうちは知らなくてもよかったはずの法的な関係がものをいうようになる。
つまり、両者の間で取り結んでいる「契約」が重要になってくるのだ。
はたして、法的に言ってどちらの主張や行為が「正しい」のか? 労働者としての権利には、いったいどういうものがあるのか?
そこらへんが争われることになる。
とはいえ、もし労働契約に基づいて主張できる権利が自分にあったとしても、どうやってそれを行使してよいのか、ほとんどの方は知らないだろう。
そもそも、契約の内容もよく知らないのだ。
「権利を行使する」という発想すら、ないに違いない。
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