いくつか実例を見てみよう。
アパレル関係の小企業に勤める社員からの相談――
3カ月間働いたが、2万円しか支払われていない。賃金未払いについて、労基署に申告したにもかかわらず、会社側は居留守を使うなどして「払わない」という対応をとった。すると、労基署から「自分で裁判をしてください」と言われた。
これは、賃金が未払い(総額約50万円)の事例である。
困って労基署に相談したところ、対応してくれた。しかし、会社は労働基準監督官の呼び出しや訪問に一切応じず、らちがあかない。
そこで、労基署の言う通りに賃金未払いで裁判(少額訴訟、弁護士をつけずに)をして勝訴もしたが、それでも会社からの支払いはない。
その後、監督官から「この件について労基署ができることはこれ以上ないので、対応を終了します」との連絡があった――。
こういった事例を聞くと驚かれるかもしれないが、労働相談の現場では、労基署が行政指導を行っても、会社が従わないとそれ以上話が進展しないことがしばしばあるのが現実なのだ。
残業代を支払うように指導を行っても、企業によっては無視を決め込む。
もちろん、監督官が「本気」を出せば、司法警察員として家宅捜索や逮捕もできるのだが、それらの手続きには膨大な労力を要する。
後述するが、監督官の人数が少ないなか、すべてのケースでそこまではできないのが現実であり、実際には「対応を終了します」で終わらせてしまうことも多いのだ。
じつは「守備範囲」が狭い労基署
また、労基署では、本当に相談したい内容に答えてもらえないこともある。
たとえば、パワーハラスメントなどは完全に対象外だ。
個人経営の病院(クリニック)に勤める人からの相談――
上司からのパワーハラスメントがひどい。怒鳴る・小さなミスを延々と注意する・資料を叩きつけるなどされたので、事業主に相談したところ、逆に「辞めてほしい」と言われてしまった。
そこで、労働基準監督署に相談したが、対応が悪かった。「訴えることもできる」という話だけされた。会社に対して「勧告(指導)しかできない」というのが、労基署の返答だった。
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