だが、いくら約束の内容と違っていたからといって、そんなことでいちいち警察は動いてくれない。街中のケンカや万引きのすべてを警察が取り締まることが不可能なのと同じことだ。
私は昔、道ばたで男にからまれ、殴られたことがあるが、警察は男を止めてはくれたものの、処罰はしてくれなかった。結局私は、からんできた男に対して「個人的に」壊された眼鏡の修理代を請求し、相手もそれに「個人的に」応じた。
つまり、公的な機関をはさまずに、個人同士の関係として解決したのである。
それとまったく同じで、契約上の権利のすべてを国家が保障することなど不可能だ。
たとえ不誠実な取引で損をしたとしても、契約に伴う権利や義務の問題は、個人同士の関係によって解決することが原則になる。
つまりこれは、契約上の権利というものは「主張しなければ実現しない」ということだ。
サービス残業は違法なはずなのになぜまかり通っているのかといえば、それは労働者が契約上の権利を行使していないからである。
だから、正義が行われないのだ。
殺人や強盗などの「犯罪」のように、「違法だ!」と主張せずとも国家権力が自動的に取り締まってくれることなど、ありえない。意外に思われるかもしれないが、労働において、契約上の権利は、国が守ってくれるわけではないのである。
権利は、国から与えられるものではなく、契約という「対等な約束」に依拠して請求できるものだ。
ここを勘違いしてはならない。
とかく日本では、「権利」という言葉が呪文のように唱えられ、これをつぶやくと国がやってきて何かを実現してくれると思い込みがちだが、実際には権利とは、契約など市民相互の関係に基づいて請求するものであり、常に「争って勝ち取るもの」なのである。
「あなたと私の関係(契約)は、正しく実現されているのか?」という問題提起こそが、労働者と使用者との「労使関係」における権利行使なのであって、けっして国家による「保護」や「救済」といったものが主役なのではない。
私たちは「労働契約」という契約を結んでいる
私たちは会社で働くとき、基本的に「労働契約」を会社との間に結んでいる。
だが、入社するときに、こういった契約を意識することはほとんどないだろう。
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