そして、いくら健康保険でも、あまりに増えてくると、今度は複数の企業が加入して成り立っている健康保険組合から目をつけられるので、在職中に申請させずに、病気のまま辞めさせてしまう場合もある。そうなると、いよいよ何ら企業関係の補償や手当を受けることはできなくなってしまう。
よく問題になるのは、鬱病になってしまった場合だろう。
長時間労働やパワーハラスメントなどが原因なのか、それとも自分自身の持病なのか、鬱病の原因は外から見てなかなか判別できない。だから会社の側は、その判別のむずかしさを利用して、自らの責任を回避しようとしがちだ。
このときに、経営者側に立つ社労士が間に入ってきたら、おそらく仕事と無関係の病気としての処理を進めようとするだろう。社労士は経営者に雇われているので、経営者の意思に沿って手続きを進める。だが、労働者側に立つ弁護士に相談したら、労災の申請を勧められるかもしれない。
前者は健康保険の枠組みで、後者は労働災害保険の枠組みの手続きとなる。
どの法律の問題であるかは、やはり労働カウンセラーしだいで変化してしまうのだ。
権利が、国家による救済というかたちで「一律に」決まっていると勘違いしていると、多様な権利が「並存」(注:建て前としてはすみわけられているが、事実上は並存状態)していることや、契約(労働契約法)に基づいた権利行使など想像もつかないだろう。
結果として労働カウンセラーは、法律・制度をちゃんと使えるかどうか、そして、どの法律・制度をどのように使うのかという面でも、決定的な役割を果たすことになる。
「ひとりでは使えない」のが、労働法なのである。
〈了〉
NPO法人POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍(社会政策、労働社会学)。日本学術振興会特別研究員。1983 年、宮城県生まれ。2006年、中央大学法学部在籍中に、都内の大学生・若手社会人を中心にNPO法人POSSEを設立。年間600件以上の労働相談に関 わっている。東日本大震災の被災地では仙台市と共同で被災者支援事業を行う。過労死防止基本法制定運動を支援。 著書に『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』『マジで使える労働法 賢く働くためのサバイバル術』、共著に『ブラック企業に負けない』などがある。
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