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49位〜64位の「フューチャーガールズ」。上段左から2番目が平嶋夏海。下段左から2番目が小笠原茉由、同右から4番目が薮下柊©AKS |
帰ってきた「なっちゃん」
まず開始早々、会場が大きく湧いたのは62位の発表だった。読み上げられた名前は「平嶋 夏海」。今年から参加可能になったOGから、唯一ランク入りを果たした。
平嶋は、前田敦子や高橋みなみと同じ、AKBの1期生である。加入当時まだ13歳。2005年からチームAのメンバーとしてAKBの黎明期を支えてきた。2007、チームBの発足に際し、サポートメンバーとして移籍。まだAKBに入ったばかりの渡辺麻友や柏木由紀らを、先輩として引っ張った。
そうした実績からしっかり者のように見えるが、どこか危うさもあり、守ってあげたくなるそのキャラクターは多くの人に愛され、決してフロントメンバーではなかったが安定した人気を誇っていた。渡辺や現HKT48の多田愛佳らとともにユニット「渡り廊下走り隊」のメンバーとしても活躍した。
その平嶋が突然AKBを去ったのは2012年の1月。ネット上に流出したプライベート写真が「AKB48のメンバーとしては、自覚が足りないと指摘されても致し方ないと判断されるもの」だった、とその理由が説明された。2月の握手会イベントでファンたちの前に現れ、涙なからにあいさつしたのがAKBメンバーとしての最後の活動となった。なっちゃん、の愛称で親しまれてきた平嶋を応援し続けてきたファンには極めて後味の悪い幕切れだった。
今回、一定の活動実績のあるOGが参加可能となり、平嶋は立候補した。すでに辞めてから1年以上が経過しており、その後、指原事件や記憶に新しい峯岸みなみの事件など、よりショッキングな出来事もあったため、ファンの間でも平嶋が辞めたのはかわいそうだった、との声も出始めていた。だが同時に、平嶋のAKBメンバーとしての活動の記憶も薄れてきたのは確かだ。このため、立候補してもランクインは難しいのではないか、と考えられていた。
この日、日産スタジアムではコンサートと開票イベントを連続して行った。その短いインターバルの時間に、サプライズとしてOGによる曲披露があった。出演したのは浦野一美、大堀恵、小原春香、佐藤由加理、そして平嶋夏海の5人。曲はまさに平嶋らがAKBを立ち上げたころの曲「スカート、ひらり」だ。久しぶりにファンの前で歌い踊る平嶋の姿に胸を熱くしたファンも多かったはずだ。
順位の発表では、まず名前より先にチーム名が紹介される。そこで「卒業メンバー」の言葉が出た瞬間、会場はどよめき、「平嶋夏海」の名前が続くと、大歓声に変わった。平嶋と苦楽を共にしてきたメンバーたちも涙を浮かべた。
その平嶋は、7万人の前でこうコメントした。「私は、ああいう辞め方をしたので、謝罪しかできませんでした。なので今回、この場で改めて皆さんに感謝の気持ちを言いたいと思います。本当にありがとうございます。皆さんの票は、私の未来です」。
突然姿を消したメンバーに1年以上思いをつなぎとめてきたファンたちの、もう一度なっちゃんに会いたい、というほとんど執念に近い熱い気持ちが実った瞬間だった。
消えたアイドルにもう一度会いたい、という願いは、通常は叶わないものだ。1984年に発売されたオリジナルビデオアニメ『魔法の天使クリィミーマミ 永遠のワンスモア』は、テレビシリーズの最終回で姿を消した謎のアイドル、クリィミーマミにもう一度会いたいというファンたちの思いが奇跡を起こすストーリーだが、この日の日産スタジアムで、それが現実となった。
小笠原特急、総監督に直訴?
速報で圏外だった、NMB48の小笠原茉由が54位に入った。まーちゅんの愛称で知られる彼女は、人一倍汗をかく体質のようで、公演では序盤から汗びっしょりになり、髪の毛が顔に貼りついた状態になっている。だがそのひたむきさと、懸命に考えたモノマネや一発芸で場を盛り上げる姿に心を打たれるファンは多く、握手会でも大人気だ。
その小笠原がスピーチの後半、待機席の高橋みなみに向かって「総監督!」と呼びかけた。この瞬間、会場のファンたちは身構えた。2011年の総選挙で、SKE48チームKIIの高柳明音が舞台上から秋元康総合プロデューサーに「私たちに公演をやらせてください!」と直訴し、KII初のオリジナル公演が生まれるというドラマがあった。その記憶が一瞬頭をよぎった。
だが小笠原の口から出たのは、高橋みなみの口調をマネた「これからもよろしくな!」。会場は大爆笑である。緊張と、オチをうまく使った関西仕込みの話術によって、固かった会場の雰囲気が一気に和んだ。
チーム一丸となって知名度向上へ
今回はチーム愛、グループ愛を前面に出してスピーチするメンバーが相次いだ。49位の薮下柊もその一人で「ひとつ言いたいことがあるんですけど、NMB48はチームNさんやチームMさんだけでなく、チームBIIもムチャクチャいいチームなんで、ぜひ公演に足を運んでください!」と呼びかけた。
彼女が所属するNMB48チームBIIは、発足から日も浅く、まだメンバーの知名度も低い。もともとNMBの人気はチームNに集中しており、他のチームは苦戦を強いられている。そこでチームBIIのメンバーたちは自主的に、自分たちのチームをもっと多くの人に知ってもらおうとするキャンペーン「騙されたと思って食べてみて計画」を発動。同じタイトルでブログを同時に投稿するといった活動を続け、なんとかファンに注目してもらおうと必死の努力を続けている。
5月に東京で行われた、各チームの公演を再現する連続コンサートでは、彼女たちの担当回だけチケットが売れ残るという事態に。この時もメンバーが街頭に立ってビラ配りをするなど精力的に活動した。発足当時、まだほとんどファンがいなかったころのAKBをほうふつとさせる彼女たちの頑張りに注目してみるのも面白いかもしれない。
中堅の不安
33位〜48位の「ネクストガールズ」。上段左から2番目が石田晴香。上段右から3番目が多田愛佳、下段右から2番目が兒玉遥、上段左から4番目が斉藤真木子©AKS |
「私たち中堅は、入るか入らないかの瀬戸際で、ドキドキしながらがんばっています」と発言したのは46位に入ったAKB48の5期生、石田晴香。1期〜3期を中心とした選抜常連と、次々台頭してくる若いメンバーに挟まれる不安な胸の内をのぞかせた。
小柄で愛らしい笑顔とは対照的に、負けん気が強く、時に運営側の言うことに逆らってでもファンサービスを優先させようとする石田。この日も最後は「選抜メンバーにかみついていけるぐらい、私はAKB48の仕事を頑張っていきたいと思います」と力強く宣言し、会場を沸かせた。
移籍の決断、自ら評価
HKT48に昨年移籍した多田愛佳は43位。一足先にHKTに移籍した指原は大分県の出身だが、彼女は埼玉県の出身で九州には直接縁がない。しかし昨年の52位という順位に悔しさを感じ、現状を打破しようと自ら志願してHKTに移籍した。
12歳でAKBに合格した彼女は、ずっと妹的なキャラクターを貫いてきたが、すでに多くの後輩を引っ張る年齢になり、立ち位置に迷いが生じていた。ややアンニュイな表情も彼女の魅力だが、それが「やる気がない」と評されることもあった。
だが、youtubeに投稿された“政権放送”に登場した多田の表情は、今までにない晴れやかな表情だった。移籍してよかった、自分に自信を持てた、とさわやかに語るその姿に、ときおりやきもきさせられてきたファンたちも、共に応援してきてよかった、と自信を持つことができた。
そして昨年より10位近くランクアップと、実績も残した。この日のスピーチでも涙を浮かべながら「埼玉を飛び出し、HKTに移籍して本当に良かった」と重ねて強調。「HKT48をAKB48よりも有名にできるように頑張っていきます」と語る多田に、観衆は惜しみない拍手を送った。
遅れてきた実力派
43位で初めてランク入りを果たしたSKE48の斉藤真木子は、昨年研究生からチームEに昇格した。もともと彼女はチームKIIのスターティングメンバーである。だが2010年12月、他の3人のメンバーとともにに研究生に降格。以来1年9カ月にわたり、正規メンバーのアンダーとして多くの劇場公演に立ち続けてきた。歌やダンスの実力は折り紙つきで、多くの研究生が彼女から学び、そして彼女を慕っていた。
長期にわたり、自分の置かれた立場に腐ることなく、もくもくと課せられた仕事をこなしてきた彼女は、チームEへの昇格が決まり「諦めないで良かったです」と声を絞った。しかしこの日は涙はなく、速報の順位が非常に高かったことを自らネタにし「速報では25位という夢を見させていただきました。今日は42位という素敵な順位で、現実を見させてもらってます」と明るく語っていた。
彼女のランク入りには、熱心なファンたちが結束して、自らも投票し、他のファンにも投票を呼び掛けるといった運動を繰り広げた成果、と見る向きが強い。メディア出演によるネームバリューのあるメンバーに、熱心なファンの団結力で挑む、という構図は今回の総選挙のひとつの特徴だった。
特にSKE48のファンにそうした傾向があり、中位から下位にかけて、多くのSKEメンバーが初のランキング入りを果たしている背景には、彼らの努力があったものと考えられる。
「ちゅぶしにいく」
37位で初めてのランク入りを果たしたHKT48の兒玉遥。堂々とした成績で、コメントでも「すごく誇らしい順位です」と笑顔でコメントしていたが、その表情には若干の悔しさも感じられた。
兒玉は、HKT48が劇場デビューして以来、ずっとそのセンターポジションを務めてきた。だが、昨年の選抜総選挙ではHKTから宮脇咲良だけがランキング入りし、自分は圏外。そしてHKTは今年待望のCDデビューを果たしたが、そのセンターポジションは期待の研究生、田島芽瑠に奪われた。
いつもあどけない笑顔で、そうしたことを気にしているようには見えなかったが、ある日SNSのGoogle+に「私は今、HKT48のセンターに立っていません。デビュー前までは、あそこに立ってたのに、どうしてかな?って思いました。涙を流したこともありました。そして何よりセンターの役目を果たせなかった自分に一番悔しかったです。メンバーや応援してくださる皆さんにも申し訳ないなって思いました。でも、今はもう吹っ切れてます。気持ちの整理もついています」と投稿。心の奥底に秘めた闘志をのぞかせた。
速報では、HKTの中では宮脇、田島より上を行く位置につけ、心に期するところがあったかもしれない。しかし最終的に宮脇には上に行かれる結果となった。
最後は満面の笑顔で「今、決めました。昨年の篠田さんの言葉を胸に、先輩たちをつぶしにいくぐらいの気持ちで頑張りたいと思います!」と宣言。昨年、篠田麻里子が後輩たちに言い放った「つぶすつもりで来てください」という言葉を引き合いに出し、決意を示した。もっとも、彼女は非常に滑舌が悪く、それがチャームポイントのひとつでもあるのだが、この決意表明も「ちゅぶしにいくぐらい」に聞こえたのはご愛嬌だった。
悔しいと思える自分で良かった
17位〜32位の「アンダーガールズ」。上段左から2番目が入山杏奈、下段左端が松村香織、下段右から4番目が柴田阿弥©AKS |
イベント後、舞台裏で高橋みなみが印象に残った言葉として挙げたのが、30位に入ったAKB48の入山杏奈の言葉だ。昨年圏外からの30位は立派だが、その口から洩れた言葉は「今、すごく悔しいです」。そのあと、彼女はこう続けた。「悔しいな、と思える自分で良かったな、と思います。今まで自分に自信がないからか、いろんなメンバーが活躍しているのを見ても、あまり悔しいと思うことがなくて、いいなあ、とかすごいなあ、という気持ちで見ていて。でも、悔しいと思えたので良かったです」。
これと同様の感想として、圏外だったHKT48の下野由貴はGoogle+にこんな言葉を残している。「始まる前に、『今年も圏外だったとしたら、去年よりも悔しいって思うんだろうなぁ』って考えてたんです。でも、終わった今、『悔しい』というよりかは、『みんな、すごいなぁ』っていう気持ちです。だって、悔しいと思えるくらい頑張ってない。全てが足らなかったんだと思います。悔しいと思えるくらいになりたい。私、変わりたい!」
若いながらも、自分を客観的に見ることができているメンバーが多いのも、日々切磋琢磨しあっているAKBグループの特徴なのだろうか。
いったんCMに
24位につけたのは、SKE48の「終身名誉研究生」松村香織。昇格を自ら辞退し、研究生として活動を続けることを選んだ23歳は、3日前に武道館で行われたグループ全体の研究生だけによるコンサートでも司会として大活躍。暴走気味のキャラクターで時に炎上事件も起こすものの、連日動画をSNSにアップするなどソーシャルメディア時代のコミュニケーション力を駆使し、選抜メンバーにも匹敵する知名度を誇るAKBグループの特異点である。
スピーチでは「普段アンチの人と戦ったりとか、炎上したりして、困らせたりとかもするんですけど、この結果になったということは、皆さんがちょっとそれも認めてくれてるのかな、と思っています」と自分の選択に満足している表情で語った。そして研究生の長として、「AKBグループの研究生は、正規メンバー以上に頑張っている子がたくさんいます。なので皆さん、劇場で頑張っている研究生のことを、ちょっとでもいいので見てほしいと思います」と研究生の存在を会場にアピール。さらに「個人としては、この48グループの予定調和を壊していきたいと思います」と、今後も特異点であり続けることを宣言した。なかなか心を打つスピーチではあったが、このときテレビ中継はちょうどCMに入っていた。これも彼女らしい結果だ。
今年のシンデレラガール
17位、アンダーガールズのセンターポジションという好位置を獲得したのは、SKE48の柴田阿弥。2010年から活動しているが、AKB総選挙で初のランク入りなのはもちろん、SKEの選抜にも選ばれたことがないという、今年のシンデレラガールだ。
速報発表時、完全なダークホースだった彼女が突然8位に入ったのは驚きをもって迎えられた。おそらくこれは、前述したようなSKEファンたちの結束による成果だろう。彼女の知名度はこれで急上昇しており、最初から速報でのランク入りを狙ったファンたちの計画的な行動であったかのように思われた。
そのため、最終結果では圏外に落ちるのでは、とも考えられたが、この速報を見て彼女の魅力を思い出したり、このまま波乱を起こしてみようと考えたファンが多かったのか、見事な好成績を残した。
運営側もこれをネタにして、選挙前のライブでは、劇場公演曲『天国野郎』のセリフ部分を彼女に担当させた。不景気な世の中をシニカルに歌うこの曲の中では、メンバーの一人がやや勘違い気味の妄想を語ることになっている。まさに彼女がおかれた立場にぴったりだったわけだが、妄想に終わらず、現実になってしまったのが何ともAKBグループらしい展開ではあった。
順位発表後のコメントでは、「速報では8位という夢のような順位をいただけて、本当に嬉しかったです。いつかは速報だけではなく、本番でも速報のような順位をいただけるよう、一生懸命頑張ります」と真摯に語った。
次世代が無理なら、今を引っ張る
16位の須田亜香里©AKS |
SKE48からのAKB選抜メンバー入りといえば、松井珠理奈と松井玲奈のW松井と相場が決まっていたが、今回、ついに3人目が誕生した。16位の須田亜香里である。
須田は研究生からチームSに昇格したが、決して日の当たるポジションではなかった。しかし、顔からはみ出しそうな満面の笑顔と元気一杯のパフォーマンス、握手会などできめ細やかにファンに接する姿勢が評価され、じわじわと人気を上げてきた「叩き上げ」タイプ。その握手会人気はW松井をしのぐほどだが、この日のコメントではこんな言葉も聞かれた。
「私ずっと、握手会の須田亜香里、みたいなキャッチフレーズになっていて、握手会以外でも頑張ってるし、認めてもらいたいとずっと思ってきました。握手会も楽しくて好きなんですけど、須田亜香里イコール握手会、って思われるのがすごく悔しくて」。握手会の女王から洩れた意外な告白に、会場は一瞬静まり返った。
だが、いつも前向きな姿勢が彼女の持ち味。最後は「21歳だから次世代選抜にはなれないけど(笑)、次世代が無理なら、今を引っ張れる人になればいい」と述べ、会場からひときわ大きな歓声を得ていた。
今回の彼女のジャンプアップには、3月に出演したバラエティー番組での活躍が追い風になっている。フィギュアスケートのオリンピック金メダリストや現役のシンクロナイズドスイミング選手と体の柔らかさを競って、35cmという低さのバーをリンボーダンスでくぐりぬけ、見事優勝を果たしたのだ。
もちろんメディア露出だけで一気に順位を上げられるほどAKB総選挙は甘くない。こつこつと積み上げてきた努力とファンへの地道なアピールという下地があってこその飛躍である。
徳光アナにも「塩対応」?
12位の島崎遥香©AKS |
12位の島崎遥香は初の総選挙での選抜入りだが、その表情には悔しさがありありと浮かんでいた。確かにドラマの主演や、選抜メンバーをじゃんけんで決める「じゃんけん選抜」のセンターなど、数々のチャンスをつかんできたことを考えれば、もっと上の順位に行ってももおかしくはない。実際、速報では7位につけていたのだ。
スピーチでの言葉も重かったが、もともと饒舌なタイプではないだけに、ややたどたどしいのも「いつもの島崎」と思えなくもなかった。
だが、いったんスピーチを終えたあと、会場が凍りついた。ここはCMに入っていたためにテレビで放送されていない部分だ。
司会の徳光和夫アナウンサーが、CM中の時間をつなぐ意味もあったのか、話し終えた島崎からより多くのコメントを引き出そうと、「もうちょっと言いたいこともあるのでは?」と語りかけたのに対し、島崎は沈黙。さらに「速報では1桁だったけど、この順位はどう思います?」と聞くと、「去年は選抜に入れなかったので……」と話し始めたものの、また沈黙してしまい、さすがの徳光アナもインタビューを打ち切った。
島崎は、SKE須田とは正反対に、握手会の対応のそっけなさで有名。いつの頃からか「塩対応」という表現が定着してしまった。業界の重鎮である徳光氏にまで「塩対応」を貫くそのぶれない姿勢には、すがすがしささえ感じられた。
「SNH一本で」その男気に全国が震えた
10位の宮澤佐江©AKS |
10位に入った宮澤佐江のスピーチは、今回の総選挙で最も感動的なシーンのひとつだったと言える。
現在、彼女は中国・上海に出来た姉妹グループ、SNH48とAKB48との兼任、というステータスになっている。これにはやや説明が必要だ。
昨年夏の東京ドームコンサートで、彼女がSNH48へ移籍することが発表された。そして11月に正式に移籍するのだが、中国で芸能活動をするビザが発行されず、思うように活動ができていない。今年1月にSNH48は現地でお披露目公演を行ったが、その舞台に彼女は立つことができなかった。
SNHに新天地を求めて移籍したにもかかわらず、なかなか力を発揮できないジレンマに陥っている彼女を励まそう、と、ファンたちは今年1月に行われた、投票で楽曲の人気ランキングを決めるAKBの恒例イベントのひとつ、『リクエストアワーセットリストベスト100』で、宮澤がセンターポジションを務めるユニット曲『奇跡は間に合わない』を1位にしようと運動を展開。惜しくも2位にとどまったが、宮澤への大きなエールを送った。
だがその後も状況に好転が見られず、運営側は彼女をAKB48との兼任にすることを決断。4月末の武道館コンサートでそれを発表したのだった。
その発表を聞いたときの宮澤の表情は、これ以上ないぐらいに、複雑なものだった。まだ何も成し遂げられていないまま、兼任という形とはいえ日本に活動の拠点を戻してもいいのか。ファンが自分がセンターの曲を1位にしようとしてまで励ましてくれているのに、その気持ちに応えられないままでいいのか。そんな思いが頭をよぎったのかもしれない。
そしてこの日、彼女はスピーチの中でこう話し始めた。「突然の発表となってしまいます。先日の武道館でAKBとの兼任を発表させていただきましたが、私はSNH一本でこれからいきたいと思います。彼女たちの可能性はまだ全然見えないけど、自分もいつになったら彼女と同じステージに上がれるかわからないけど……」。そこで一瞬言葉を詰まらせたが、「でも、カッコ悪い姿は見せたくないので」と力強く続けた。
司会の徳光氏に「SNHは進化していますか?」と問いかけられると「正直、進化はまだ見られません。だから私が、進化をさせます」と言い切った瞬間のその表情は、武道館で見せた顔とは全く異なる、一点の曇りもない晴れ晴れとしたものだった。
小嶋陽菜の「伝統芸能」?
9位の小嶋陽菜©AKS |
9位の小嶋陽菜は、速報では20位と大きく出遅れていた。しかし、これは毎年のことで、なぜか小嶋はいつもスロースターターなのである。最近では、ファンが面白がってあえて速報では投票しないのではないかとさえ思える。
小嶋のスピーチの全文を引用しよう。
「皆さん、応援ありがとうございました。でも、ひとつだけ言わせてください。私も、少しは順位を気にします。速報で20位だったときは、それがみんなに伝わってないのかな、と思ってすごくへこんだし、そのあと、弱音のツイートを吐くと『また伝統芸能』とか言われたりするし、意外と気にしいなところもあります。でも、立ち直るのがすごく早いです。速報が出たあと、ファンのみなさんが、絶対上がるから大丈夫とか、心配しないで、って声をかけてくださいました。ぶっちゃけ、何回目だろうとは思いましたが、皆さんの毎年の巻き返しには驚いてるし、感謝しています。私に似たようなマイペースなファンの皆さんが私は大好きです。これからも一緒に、たくさんの思い出を作っていきたいなと思っています。そして、来年もし総選挙に出ることがあれば、少しでいいので、速報前に投票をお願いします。皆さん本当にありがとうございました。」
この文面だけ見れば、かなり真剣なスピーチに見える。小嶋もやや涙顔で話していた。だが、会場は終始大爆笑である。もちろん、彼女もそうなることが分かって話している。
もっとも、それがすべて演技なのか、と言われると、あながちそうでもない気がする。本音も少なからず含まれているだろう。どこまでが本音でどこからがギャグなのかは非常にあいまいで、しかし最終的には笑いで締めくくる。こうした絶妙なコミュニケーションを大舞台でさらっとやってしまうその天賦の才には脱帽だ。
麻里子様、突然の卒業宣言
5位の篠田麻里子©AKS |
5位の篠田麻里子のスピーチもほぼ全文を紹介する。
「まずは、こんなにたくさんの応援、本当にありがとうございます。(一歩下がって、深々と一礼)去年は総選挙で、つぶすつもりで来てください、とスピーチしましたが、そのあとにたくさんの後輩たちがこの1年、期待に応えようと頑張っている姿を本当に感じ取れる1年でした。今日も見てて、こんなにも後輩ががんばってるんだな、と。うん、すごく嬉しかったし、AKB48グループはまだまだ上に行けるんだな、と実感しました。(上を見上げる)勢いのある後輩の姿を見てたら、私は1つの決断を……しようと思いました。(沈黙。会場から悲鳴)私、篠田麻里子は、AKB48を卒業します。つぶされたとかそういう話ではなくて、本当に後輩たちの勢いある背中を見ていたら嬉しくなったし、私はAKB48に悔いはありません。卒業は…(会場から「麻里子」コール)ありがとうございます。でも、後輩たちが一歩踏み出そうとしているので、私も一歩踏み出すことに決めました」
今年の篠田は、昨年の阿修羅のような表情から一転、菩薩のような、柔和でおだやかな表情だった。『北斗の拳』に登場した、南斗鳳凰拳の使い手・聖帝サウザーが、ケンシロウとの戦いの後に表情から険がとれ、子供のような表情になった場面を思い出させた。
まゆゆは王道を行く
3位の渡辺麻友©AKS |
3位の渡辺は、今年は1位を十分に狙える位置にいた。大方の予想も、大島と渡辺の一騎打ち、としていた。しかし、結果は3位。いつもたんたんとスピーチする渡辺だが、今年はその言葉に重みがあった。特にこの点である。
「センターになることは難しいことかもしれない。けれど、センターとして、ファンの皆さんに認めてもらうことが一番難しい、ということが分かりました」。
その言葉の影には、前田が抜けた後のセンターをめぐる一連の動きがある。昨年10月に発売されたシングル「UZA」では、当初渡辺と松井珠理奈のWセンターが予定されていたが、ミュージックビデオ撮影直前になって大島優子と松井珠理奈のWセンターに変更となった。
次の曲「So Long!」では初の単独センターを手にするものの、次の「さよならクロール」は大島優子、渡辺麻友、板野友美、島崎遥香の4人センター体制だ。前田敦子の後を継ぐ単独センターとして期待する声も大きいだけに、本人としても忸怩たる思いがあるだろう。それが、センターの真の難しさ、という言葉につながったものと考えられる。
だが最後は笑顔で「私はですね、どのメンバーよりも、自分自身をAKB48にささげてきた自信があります」と、一心不乱にAKBとしての活動にまい進する自分のプライドを語った。
指原をセンターに選んだことで、AKBの方向性は少し変わるかもしれない。しかし、様々なキャラクターの集合体であるAKBグループ内の、王道アイドルの遺伝子を、渡辺はかたくなに守り続けていくだろう。(2013年6月10日・I)