稲葉氏は15分の持ち時間の間に、扶養義務強化も含め、今回の生活保護法改正案に含まれる数多くの問題点を端的に指摘した。また、捕捉率が20~30%という低い水準にとどまっており、少なくとも四百数十万人が、生活保護基準以下の生活を強いられている現状を訴えた。低い水準にとどまっているのは捕捉率だけではない。たとえば餓死者の人数は、人口動態統計で死因が「食料の不足」とされている人々に限れば、年間70人程度である。これでも週に1人以上が餓死しているわけで、先進国としては決して少なくない人数なのだが、稲葉氏によれば氷山の一角なのである。結果として餓死に至ってしまう人々は、他にも持病を抱えていることが多く、死因は「心不全」とされていたりするからだ。
もちろん、今回の生活保護法改正は、さらに捕捉率を低くし、餓死・孤立死・貧困ゆえの死者を増やす可能性が高い。このことについて稲葉氏は
「暴走している機関車が今まさに人々をひき殺そうとしている時に、自ら列車に飛び乗って軌道を変えてくれた方々には感謝しています。しかし残念ながら、列車の暴走は止まっていません」
と、悲痛な表情で語った。
さらに稲葉氏は、今回の法改正について、特に「水際作戦の法制化」につながる懸念の大きな第24条8項(扶養義務強化)・28条・29条の削除を求めた。そして発言の最後に、
「生活保護制度につながることができずに亡くなった方は、もはや声を出すことはできません。しかし、生きている私たちは、貧困ゆえに餓死された方、凍死された方、孤立死された方々の無念や絶望を想像することはできるはずです。貧困による死をなくすには何が必要なのか、何を変えるべきで、何を変えるべきでないのか」
と、慎重な議論と政治の責任を求めた。稲葉氏の発言原稿の全文と参考資料は、「もやい」のブログで見ることができる(もやいのブログ)。ぜひご一読・ご一見いただきたい。
次回は引き続き、今回の衆議院での審議について述べたい。生活保護制度の「適正化」につながると考えられている改正案の各項目は、一般市民がイメージしているような「適正化」に本当につながるだろうか? もし、この改正案が参議院で可決されてしまったら、次に起こることは何だろうか?
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