現状の生活保護法下で行われている
「水際作戦」の実態
2013年5月31日の審議には、参考人として、稲葉剛氏(NPO自立生活サポートセンターもやい)が出席し、発言を行った。
過去約20年間にわたり、ホームレスを中心に約3000人の生活困窮者の生活保護申請に同行した経験を持つ稲葉氏は、「もやい」や各地の市民団体の同等の活動について、「やむを得ない」活動であると説明した。そもそも、生活保護の申請に市民団体の関係者や法律家が同行しなくてはならないのは、ほとんどの場合に、
「家族に養ってもらいなさい」
「若いから申請できません」
「住民票がないから申請できません」
と追い返されるからである。いずれも違法であるが、違法であるはずの水際作戦は、それだけ日常化しているのである。
稲葉氏はさらに、報道されない餓死・孤立死の事例について、
「路上生活・困窮状態のまま亡くなった方が多い」
という事実を述べた。ホームレスの生活状況の見回りをしている時、困窮者に支援を求められて現場に行った時には、その人々は既に餓死・凍死寸前であることが多い。もちろん、そのような時、稲葉氏らは救急車を要請する。しかし、救急車で病院に搬送されても結局は救命できず、翌日、病院を訪れると亡くなっていたことも多いそうだ。
また、生活保護を申請しようとして「水際作戦」に遭っているうちに、もともとの持病が悪化していることも多い。治療されていないガンや結核が数ヵ月のうちに悪化し、生活保護を受給できたときには手遅れとなっており、受給開始後すぐに亡くなるケースも多いという。
ついで稲葉氏は、いくつかの餓死・孤立死(疑い)事例について言及した。2012年1月、札幌市白石区で40代の姉妹が孤立死した事件について、所轄福祉事務所の面接記録の写しを解説した。そこには、一家の唯一の働き手である姉(妹は知的障害者)が福祉事務所を三回訪れて困窮を訴えたにもかかわらず、窓口担当者が詳細の聞き取りを行わず、急迫状態であるかどうかの判断も行わなかったこと、所持金がほとんどないこと・家賃滞納・ライフラインの利用料滞納などを把握した窓口担当者が「懸命なる求職活動」を求めたことなどが示されている(http://moyai-files.sunnyday.jp/pdf/130531inabahatugen_p7-9.pdf)。所持金なしに、どうやって求職できるというのだろうか?