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生活保護のリアル みわよしこ
【政策ウォッチ編・第28回】 2013年6月14日
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みわよしこ [フリーランス・ライター]

生活保護法改正案は「水際作戦の法制化」!?
衆議院・厚生労働委員会での攻防(上)
――政策ウォッチ編・第28回

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現状の生活保護法下で行われている
「水際作戦」の実態

参考人として、無念の死を遂げた人々の「生きたかった」という思いを語る稲葉剛氏(NPO自立生活サポートセンターもやい)(衆議院インターネットTVよりキャプチャ)

 2013年5月31日の審議には、参考人として、稲葉剛氏(NPO自立生活サポートセンターもやい)が出席し、発言を行った。

 過去約20年間にわたり、ホームレスを中心に約3000人の生活困窮者の生活保護申請に同行した経験を持つ稲葉氏は、「もやい」や各地の市民団体の同等の活動について、「やむを得ない」活動であると説明した。そもそも、生活保護の申請に市民団体の関係者や法律家が同行しなくてはならないのは、ほとんどの場合に、

 「家族に養ってもらいなさい」
 「若いから申請できません」
 「住民票がないから申請できません」

 と追い返されるからである。いずれも違法であるが、違法であるはずの水際作戦は、それだけ日常化しているのである。

 稲葉氏はさらに、報道されない餓死・孤立死の事例について、

 「路上生活・困窮状態のまま亡くなった方が多い」

 という事実を述べた。ホームレスの生活状況の見回りをしている時、困窮者に支援を求められて現場に行った時には、その人々は既に餓死・凍死寸前であることが多い。もちろん、そのような時、稲葉氏らは救急車を要請する。しかし、救急車で病院に搬送されても結局は救命できず、翌日、病院を訪れると亡くなっていたことも多いそうだ。

 また、生活保護を申請しようとして「水際作戦」に遭っているうちに、もともとの持病が悪化していることも多い。治療されていないガンや結核が数ヵ月のうちに悪化し、生活保護を受給できたときには手遅れとなっており、受給開始後すぐに亡くなるケースも多いという。

 ついで稲葉氏は、いくつかの餓死・孤立死(疑い)事例について言及した。2012年1月、札幌市白石区で40代の姉妹が孤立死した事件について、所轄福祉事務所の面接記録の写しを解説した。そこには、一家の唯一の働き手である姉(妹は知的障害者)が福祉事務所を三回訪れて困窮を訴えたにもかかわらず、窓口担当者が詳細の聞き取りを行わず、急迫状態であるかどうかの判断も行わなかったこと、所持金がほとんどないこと・家賃滞納・ライフラインの利用料滞納などを把握した窓口担当者が「懸命なる求職活動」を求めたことなどが示されている(http://moyai-files.sunnyday.jp/pdf/130531inabahatugen_p7-9.pdf)。所持金なしに、どうやって求職できるというのだろうか?

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


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急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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