トルコはいまや、自他ともに認める中近東の大国である。西洋と東洋が出合う世界の要衝に位置する伝統国が、勢いを取り戻しつつある。だが、この2週間にわたる市民デモをめぐる混乱[記事全文]
やはり「山高ければ谷深し」である。東京株式市場はきのう、日経平均株価が今年2番目の下げ幅を記録し、終値は日銀が「異次元緩和」に打って出る直前の水準にまで戻った。[記事全文]
トルコはいまや、自他ともに認める中近東の大国である。西洋と東洋が出合う世界の要衝に位置する伝統国が、勢いを取り戻しつつある。
だが、この2週間にわたる市民デモをめぐる混乱は、近年の安定した発展国のイメージとはかけ離れた姿を見せている。
当局が警官隊の投入など強硬姿勢に出たことで事態はこじれた。トルコ政府は市民との冷静で実のある対話にのぞみ、収束の道筋を探ってほしい。
トルコは政治と宗教を切り離した国だ。99%の国民がイスラム教徒だが、90年前に王制から共和制へ移った際に近代民主主義の原則を採り入れた。
女性のスカーフの着用を公共の場で禁じるなど、長らく西欧型をめざす道をたどった。だが90年代から地方や労働層が支えるイスラム主義が台頭した。
この10年間、首相の座にあるエルドアン氏はとりわけ宗教色の強い政治家として知られる。かねて軍など世俗派と摩擦を起こしたが、経済などの実績を強みに支持基盤を固めてきた。
在任の間に国内総生産(GDP)は倍増以上に伸びた。北大西洋条約機構(NATO)の一員として米欧との関係も深め、先進国と新興国が集う「G20」にも名を連ねている。
いまの混乱の発端は、イスタンブールにある公園の再開発計画だ。反対する若者や知識層などの集会に、催涙弾が撃たれて対立が悪化。各都市にデモが広がった。さらに、抗議した弁護士らも大勢拘束された。
それ以前にも、政府が夜間の酒類の販売を禁じたり、スカーフの着用の規制を緩めたりした動きに、世俗派は不安を募らせていた。今回のデモには、強権的ともいわれる首相の政治全般への反発がこもっている。
それでも首相を支える穏健イスラム主義の公正発展党の支持は厚い。首相が強気で振るまうのも、多数派は自身の側につくとの自信があるからだろう。
だが、このままでは、ほかの中東各地で繰り返された少数派の排除にもなりかねない。それは、トルコ自身が育ててきた民主主義と宗教の共存の原則を否定することにもなる。
民主化革命で親米独裁型の指導者が退場するなか、トルコは米欧とアラブを結ぶ希少な仲介役にもなっている。内戦状態のシリアや核問題を抱えるイランとも国境を接し、中東安定のカギを握っている。
新たな秩序を模索する「アラブの春」後の中東全体にとって範となるべく、異論も包含する穏当な民主政治を望みたい。
やはり「山高ければ谷深し」である。
東京株式市場はきのう、日経平均株価が今年2番目の下げ幅を記録し、終値は日銀が「異次元緩和」に打って出る直前の水準にまで戻った。
引き金は、急速な円高だ。株価上昇を引っ張ってきた外国人投資家が、それまでの「日本株買い、円売り」のポジションを逆転させている。
金融緩和の株価への直接的な効果がはげ落ち、為替も円高に戻る一方、長期金利は高止まりしたまま。安倍政権には予想外の事態だろう。
昨年来の上げ相場は、「大胆な金融緩和」を掲げた安倍政権への期待から始まった。
緩和策に財政出動、成長戦略からなる「3本の矢」がセットになって真の威力を発揮するというのがアベノミクス相場のシナリオだった。
であれば、成長戦略への失望が緩和効果のはげ落ちを増幅して、マイナスの相乗作用を生むのもいわば必然である。
株安には、より思い切った成長政策を求める市場からの催促という側面もあろう。だが、付け焼き刃的な補強を施してみても、アベノミクス期待が再生するとは思えない。
財政規律と相反する法人税の減税、賃金デフレのリスクをはらむ解雇規制の緩和など、市場が成長戦略で求める政策のなかには慎重に検討すべきものが少なくない。拙速なあつらえで済む話ではない。
株高が続いていたころ、安倍首相は国会で「政治は結果だ」と胸を張り、投資家の期待は大いに高まった。
ところが、成長政策といっても日本経済を一変させるような魔法の杖はない――。株価の下落は、そんな当たり前の現実を市場が消化している過程ともいえる。それは不可避なだけでなく、必要でもある。
相場の乱高下の背景には、外国のヘッジファンドなど投機筋の動きがある。これまで上げ相場の立役者だったが、米国の金融緩和の行方が不透明になり、弱気に転じた。これまでも指摘してきたとおり、緩和マネーに依存した政策運営は危うい。
与党内では参院選をにらみ、負担増につながる政策を先送りしつつ、公共事業の拡大を求める声が強い。
だが、緩和策の効果が切れたからといって財政を緩めれば、長期金利が急騰しかねない。
浮ついた対策に走らず、財政にも目配りした改革を進めるときだ。それがひいては株価にも反映していく。