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プロ野球 変えられていた統一球

6月12日 23時20分

稗貫誉記者

プロ野球で今シーズンのホームラン数が昨シーズンより増えていることについて、日本野球機構はボールの反発力が昨シーズンより高くなるよう調整していたことを明らかにしました。
これまでの、昨シーズンと変わらないボールを使っているという説明を覆したことになります。
なぜ、こうした事態が起きたのか。
その背景をスポーツニュース部の稗貫誉記者が解説します。

統一球の導入

プロ野球では3年前まで、それぞれの球団が契約した4つのメーカーのボールが使われてきました。
しかし、WBC=ワールド・ベースボール・クラシックなどの国際大会では、日本の選手たちが日本のボールとの違いに戸惑うケースがありました。
このためプロ野球では、おととしのシーズンから試合で使うボールを1つのメーカーに統一して感触を国際大会のボールに近づけました。

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新しいボールは「統一球」と呼ばれ、中心のコルクを覆うゴムの材質を変えて、反発力を低くくしたことが特徴で、打球の飛距離が抑えられることになりました。
その結果、ホームランの数は、統一球導入前の3年前の1605本から、昨シーズンは881本まで低下しました。

今季はホームラン数が増加

しかし、今シーズンになってからホームランの数が大きく増え始めました。
昨シーズンが1試合平均で1.02本だったのに対し、今シーズンは1.50本とおよそ1.5倍に増えています。

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さらに、選手会も各球団の選手会長など役員を務める選手40人から50人の意見を集約したところ、およそ90%から「ボールが飛ぶ」とか、「打った感触が昨シーズンより軽い」といった指摘が出ていました。
この指摘に対して日本野球機構やボールを製造しているメーカーは、これまで「昨シーズンとボールは変わっていない」と説明し続けてきました。

説明を覆す

一方、選手会は、ホームランなどが増えることはピッチャーに不利になり、これまでの成績で年俸の出来高払いの契約を結んだ選手にとっては前提条件が異なってくると指摘してきました。
このため選手会は、ボールが変わっていないという説明について日本野球機構にデータによる裏付けを求めてきました。
これに対して日本野球機構は11日、仙台市で行われた選手会との話し合いの中で、これまでの内容を覆す説明をしました。
日本野球機構によりますと、プロ野球のボールは1年に4回から5回、抜き打ちで検査が行われます。
検査では、各球場から12個のボールを集めて反発力をはかります。
昨シーズンの検査では、この12個の平均の反発力が基準とした値より低いことがあったため、日本野球機構は関係者への説明をせず、メーカー側にボールを調整するよう指示したということです。

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そして、日本野球機構は在庫として残っていた昨シーズンのボールを3月のオープン戦期間中に使い切り、今シーズンの開幕戦からは調整が済んだ新しいボールを使っていました。
つまり、昨シーズンとは違うボールを使っていたことになります。
さらに今シーズンのボールの平均の反発力はこれまでの2回の検査ともに基準の値を上回っていて、昨シーズンに比べて反発力が高まっていることが分かりました。

日本野球機構に求めることは

今回、球団の監督や選手が問題視しているのは、ボールを調整していながら、日本野球機構が「昨シーズンとボールは変わっていない」と虚偽の説明を続けてきたことです。
これまで事実と違う説明をしていたことについて、11日、日本野球機構の下田邦夫事務局長は、「ボールの違いを伝えることが混乱を招くのではないかと懸念していた」と話しています。

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日本野球機構は選手会に説明を求められなければ、公表するつもりはなかったとしています。
さらにボールを製造したメーカーにも、「去年と同じボールを使っている」と外部に説明するよう要請していました。
「今シーズンはボールが飛ぶようになったのではないか」という疑問に対し、反発力を調整していたことを公表せず、さらに虚偽の説明をしていたことで、日本野球機構は選手やファンの怒りを買っています。

コミッショナー「知らなかった」

これを受けて、プロ野球の加藤良三コミッショナーが12日、都内で会見し、「内部の意思疎通を欠いたため、私自身はきのうまでこの事実を知らなかったし、知っていたら12球団に公表したと思う。隠蔽や不祥事でないと認識しているが、結果として選手をはじめ多くの人に迷惑をかけたことは申し訳なく思っている」と謝罪しました。
そして、「結果として監督不十分であり、責任を感じている。ボールの問題については透明性を高めるとともに、今後はガバナンスの強化に努めたい」と話し、辞任する意志がないこと考えを示しました。

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一方、11日、報道陣に対し下田事務局長は、「コミッショナーには相談した」と述べましたが、12日の会見で「記憶が混乱していた」と述べ、みずからの判断でボールの調整を指示したと発言を訂正しました。

求められる透明性

かつての人気を取り戻せないプロ野球は、ファンの信頼をさらに失いかねない事態に直面しています。
なぜこうした問題が起きたのか、日本野球機構はこれまでの経緯や背景を検証し、ファンや選手に対し、しっかり説明していくことが求められています。

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