(cache) 「あいまいな喪失」

「あいまいな喪失」

　原発事故に見舞われた福島県でいま「あいまいな喪失」という状況が生まれていると、地元の福島民報編集局次長が東京地区の「マスコミ倫理懇談会」で報告している。

　▼津波で被災した地域を除けば、風景は被災前と何ひとつ変わっていないように見える。だが、大地は放射性物質に汚染され、多種多様な喪失がある。家があるのに帰れない。農地があるのに耕作できない。家族がいるのに一緒に暮らせない。そんな状況である。

　▼原発事故から２年３カ月。福島県ではいまも、仮設住宅に３万２千人、みなし仮設住宅（借り上げ住宅）に５万８千人が暮らしている。離散した家族も多く、環境の激変で体調を崩し、孤独死する人も後を絶たない。

　▼事態は何ひとつ改善には向かっていない。事故そのものが収束とはほど遠い状況だし、除染作業も進まない。復興予算は付いたが、生活再建に向けた動きは進まない。「あいまいな喪失」「中途半端で先の見えない状況」が被災した人たちの心の整理を難しくしているからだという。

　▼目を東京に転じると、安倍政権は原発の活用政策にかじを切り、政権幹部もまた福島の事故がなかったかのような発言を繰り返している。福島の「あいまいな喪失」は切り捨てられ、新聞には原発再稼働、原発輸出の見出しが躍っている。

　▼現地の声なき声に耳を傾け、見えない喪失に思いをはせなければならない。いま、私たちの想像する力が試されている。　（石）

(2013年06月11日更新)

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