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Jの秋春制が突如合意に達した舞台裏

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 Jリーグは12日に都内で開催したJ1・J2臨時合同実行委員会で、現状の春秋制シーズンをヨーロッパに合わせた秋春制シーズンへ「然る時期に移行する」ことで初めて合意した。

 ヨーロッパ内で日本の春秋制へ移行する動きが浮上したことを受けて、今年に入って議論そのものが滞っていた秋春制シーズンへの移行問題が突如として合意に達した背景には、国際サッカー連盟(FIFA)とアジアサッカー連盟(AFC)が策定する年間カレンダーが密接にリンクしている。

 すでにFIFAは2014年から2018年までの国際Aマッチデーを決定している。毎年9月、10月、11月にはそれぞれ2試合ずつが行われ、世界各国のリーグ戦はその都度、2週間前後の中断を強いられる。

 加えて、AFCがアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を現状の「2月開幕・11月決勝」から、ヨーロッパ・チャンピオンズリーグに倣った「8月開幕・5月決勝」に変更するプランを進めていることが判明。実際にACLのシーズンが移行されると、予選リーグの終盤戦とホーム・アンド・アウェー形式で行われる決勝トーナメント1回戦が10月から11月にかけて行われることになる。

 臨時合同実行委員会終了後に記者会見したJリーグの中西大介・競技事業統括本部長は、「そうなると現状のJリーグのカレンダー自体が破綻をきたしてしまう」と明言。Jリーグを秋春制に移行する最大のメリットを、全40のJクラブの社長で形成される実行委員会で説明して同意を得た。

「11月の上旬にはナビスコカップの決勝戦も行われる。破綻したカレンダーのもとでは、シーズンを送ることができなくなる。本当にお手上げになってしまうんです。ACLが変更された時点で速やかにJリーグも秋春制へ移行できるように、準備だけは整えておかないといけない」

 現状のJリーグのカレンダーは、12月第1週に最終節が組まれている。その直前である11月に国際Aマッチデーなどで飛び石の試合日程を余儀なくされ、さらにACLに出場するチームは原則水曜日に予選リーグや決勝トーナメントが組み込まれる過密日程を強いられる。当該クラブの選手たちは蓄積した疲労で、クライマックスにおいて100%のパフォーマンスを見せられなくなる恐れもある。中西本部長が続ける。

「そうなると、J1終盤戦の優勝争いのストーリーが成り立たなくなってしまうんです」

 注視すべきは、ACLのスケジュールがいつ変更されるのかという問題である。この日決められた「然るべき時期」とは、その変更時期と連動することは間違いない。

 私は、遅くても2022年にカタールで開催されるW杯の前年となるだろうと予測している。2021年秋にACLをスタートさせ、中東での初開催となるW杯前にカタールのメインスタジアムで華々しくファイナルを迎えるのが理想のパターンとなるのではないか。

 ただ、現職のサルマーン・アール・ハリーファ会長(バーレーン)以下の要職を中東勢で占められ、実質的な「伏魔殿」と化しているACLの現状においては、日本へはほとんど情報が伝わってこないという。

 日本サッカー協会もロビー活動を展開しているが、残念ながらなす術がない。来年から突如としてACLのスケジュールが変更される可能性も決してゼロではい。中西本部長は危機感を募らせる。

「可能性は低くても慎重な準備が必要となる」

 長く議論されてきた秋春制への移行で最も問題視されたのが、積雪地域においてサッカーができる環境を整えることへの是非だった。アルビレックス新潟をはじめとする積雪地域のJクラブは、資金面の問題や集客への悪影響を理由に秋春制への移行を断固拒否してきたが、この日の臨時合同実行委員会では全会一致で合意に至った。Jクラブだけでなく自治体、Jリーグ、日本サッカー協会が一体となって、スタジアムに屋根やヒートシステムを設置する方策を練っていく方針を確認した。

 積雪クラブが態度を軟化させた背景には、秋春制シーズンに対する概念の変化が挙げられる。Jリーグのシーズン移行を最初に推し進めたのは、2008年7月に第11代日本サッカー協会会長に就任した犬飼基昭氏だった。しかし、あるJクラブの強化責任者はこう語る。

 「犬飼さんは『サッカーは真夏の暑い時期にするスポーツじゃない』と声高に唱え、選手たちのハイパフォーマンスをお客さんに見せる手段として秋春制への移行を訴えていたけど、今は代表チームのことを考えた場合を含めて、ヨーロッパのカレンダーに合わせることが最大のメリット、という考え方がJクラブにだいぶ浸透してきた。2ステージ制を復活させる構想が持ち上がったのも、いざシーズンを移行しようとなった時に、第1ステージを第2ステージの後に持っていくことでスムーズに移行できるからです」

 昨11日から2日間にわたって開催された今回の合同実行委員会では、2ステージ制の復活や、プロ野球に倣ったクライマックス・シリーズ導入を含めたJ1の大会形式の変更も話し合われる予定だった。しかし、出席したJクラブ社長からシーズン移行問題に関する質問が相次いだため、結局、7月9日に再びJ1・J2の合同で実施される実行委員会へ持ち越しとなった。それだけ、ACLのスケジュール変更がもたらす危機感を、JリーグだけでなくJクラブ全体が共有している証と言えるだろう。

 この日の実行委員会で合意に達された「然るべき時期」は、遅くとも2021年シーズンとなるのだろうか。それまでは、Jリーグが船頭となって、結論が導かれるまでに多大な議論と時間を要する積雪地域対策などの懸案事項をひとつずつ、早急にクリアしていくことになる。
(文責・藤江直人/論スポ)

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