われらの詩:幻の反戦詩誌復刻 原爆詩人・峠三吉ら編集
毎日新聞 2013年06月12日 15時41分
「にんげんをかえせ」の詩で知られる広島の原爆詩人・峠三吉(1917〜53年)が中心となり発行したサークル詩誌「われらの詩(うた)」が、没後60年を機に京都市の出版社から全号復刻される。朝鮮戦争前年の1949年に創刊、1953年の第20号まで刊行されたが、広島県内でも全号そろう図書館はない幻の雑誌。研究者は「言論統制下で広島の詩人たちが反戦の声を上げていたことがよく分かる」と評価している。
創刊当時の日本は、連合国占領下で、労働運動が盛んになり、それと密接に関わりながら職場や地域で、詩をはじめとする文化系サークル運動が活発だった。広島・山口などでのサークル運動を束ねる場として、峠が若い詩人たちに呼びかけ「われらの詩の会」を結成、機関誌として発行。詩人の栗原貞子や画家の丸木位里・俊夫妻らも参加した。
一方、連合国軍総司令部(GHQ)が45年に出したプレスコードなどで言論は統制され、広島では50年の平和式典が中止になるなど特に厳しい規制が敷かれた。そうした中、「われらの詩」は、朝鮮戦争批判や原爆被害、再軍備反対を訴える詩や評論を掲載した。
峠と親交があり、同会にも詩人・御庄博実として参加した広島市安佐南区の医師、丸屋博さん(88)は「自由な表現ができない中、どういう詩を書くか論議を重ねた」と振り返る。丸屋さん自身も反戦詩を発表し逮捕された。「広島では朝鮮戦争への強い危機感があった」という。
原爆文学に詳しい川口隆行・広島大准教授は「峠は『原爆詩人』として知られるが、最初から原爆詩人だったわけではない。朝鮮戦争という現実に向きあったことで原爆の記憶が呼び覚まされ、それを詩として再構成したことが『われらの詩』から分かる」と話す。
復刻版は三人社(075・762・0368)から7月に全2巻で刊行予定。峠の「原爆詩集」の自筆原稿を収めた付録の巻など計4巻で7万3500円(税込み)。【高橋咲子】