特集ワイド:続報真相 アベノミクスはピンチですか 「教祖」浜田宏一・内閣官房参与に問う
毎日新聞 2013年06月07日 東京夕刊
既に安倍内閣は2012年度補正予算で公共事業費2・4兆円を積み増し、13年度予算では実に前年度当初比15・6%増の5・3兆円を計上している。しかし、景気浮揚には金融政策こそ重要で、財政出動は副次的というのが浜田さんの立場だ。なぜなら公共事業の財源として国債を増やせば金利が上がる。金利が上がれば投資家は日本で資産運用するから円需要が増え、円安から円高に振れる。内需が増えても外需が冷えることが懸念されるためだ。「永田町には『さあ財政出動だ』と浮かれた雰囲気がある。トンネルや橋が落ちないように最低限の公共事業はすべきですが、バラマキはいけない。質を重視してほしい」
「第三の矢」の成長戦略にも注文をつける。安倍首相が「一丁目一番地」と位置付ける規制改革については「小泉内閣で経済財政担当相を務めた竹中平蔵さん(現・産業競争力会議議員)の考えと同じだが、当時は競争に負けた人を救うという発想がなかった。『第四の矢』としてセーフティーネットを設けるという方法がある」。安倍首相が交渉参加を表明し、やはり成長戦略に組み込まれている環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は「方向性には賛成だが、日本の文化・風土は守らなければいけない。税制や法制、環境基準まで世界共通の尺度にすることが国益にかなうのか。国民が厳しく見守っていかないと」。
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「内閣官房参与は官邸に執務室が与えられます。消費増税を巡って今、同室の参与と議論しているんです」。ぽつりと語った。その参与とは丹呉泰健・元財務次官。消費税は来春、8%への引き上げが決まっているが、景気動向で判断するという付帯条項がある。丹呉氏は増税派、浜田さんは「消費を冷やし金融緩和の効果を消してしまう」と、来春導入には反対の立場だ。何をどう議論しているのか。重ねて聞いても「判断するのは安倍首相だから」と明かさない。安倍内閣の参与は9人。経済・財政・金融分野の助言役は浜田さん、丹呉氏、「国土強靱(きょうじん)化」のための公共投資増や内需拡大を唱える藤井聡・京都大大学院教授ら4人だ。「藤井さんには先日初めてお会いしましたが……」。“同僚”たちについて口は重い。アベノミクスのブレーンといっても一枚岩ではなく、持論を通そうとする専門家同士がせめぎ合っているらしい。