特集ワイド:続報真相 アベノミクスはピンチですか 「教祖」浜田宏一・内閣官房参与に問う
毎日新聞 2013年06月07日 東京夕刊
アベノミクスの潮目が変わったのか。13年ぶりの下げ幅を記録した5月23日以降も株価は安定せず、週刊誌には「大暴落」の大文字が躍る。折しも安倍晋三首相の経済ブレーンにして内閣官房参与の肩書を持つ浜田宏一・エール大名誉教授(77)が米国から来日中と聞き、この波乱をどう分析し、今何を思うかを知りたくて投宿先を訪ねた。
◇株価変動はあって当たり前
「ほら、いい季節になりましたね」。滞在中のツインルームから新緑のまぶしい庭園を望む窓辺を指しながら、にこやかに迎えてくれた。予想外のことだった。
「5・23ショック」はお祭りムード一色だった株式市場を直撃。中国の景気指標悪化など原因については諸説あるものの「アベバブルの崩壊」との指摘も少なくない。その後も数百円単位の乱高下が続き、103円台まで進んだ円安には揺り戻しが起きている。浜田さんといえば、大胆な金融緩和を通じてインフレ期待を高め物価上昇や経済活性化を目指すリフレ派の重鎮、「アベノミクスの教祖」とまで呼ばれる人物だけに、ピリピリしたやりとりになることを半ば覚悟していたのだが。
ならばと「アベノミクス大ピンチに!」と大見出しで報じる週刊誌記事を手渡してみた。「アベノミクスは成功していますよ。心配することはありません」。やはり笑みを絶やさず、動じる気配はない。「株価は一本調子に上がり続けた末の調整局面。日本人も外国人も日々の思惑の中で大量に売買しているのだから、変動があって当たり前なんです。円安から円高への揺り戻しも2〜3%の範囲にとどまり、輸出への好影響は衰えていません」
仮に今度の株下落が一時的なものとしても、アベノミクスそのものの「副作用」はどう考えているのか。「確かに輸入産業の中には円安で困っているところもあります。しかし輸出産業は長い間、円高に苦しんできたんです。市場経済だから運の良い産業、悪い産業が出てくるのは仕方がありません。アベノミクスが実体経済に好影響を与えているのは、最新の有効求人倍率が2カ月連続で上昇したことからも分かるはずです」
初めて表情が曇ったのは金利の話になったときだった。貸出金利の指標となる長期金利(10年物国債の利回り)は4月の0・3%台から現在は1%近くに跳ね上がり、各金融機関は住宅ローンの金利引き上げを決めた。「先日、タクシーの運転手さんからこんなことを言われたんです」。彼の実家は会社を経営し、銀行融資を受けているのだが、返済利息が上がっても商品の市場価格は上がらず、経営は逆に苦しくなった−−。