日本はダンスが禁止されている。
ダンス禁止法。
クラブに行ったり、クラブミュージックを聴いていると、良く耳にする言葉です。
でも本当にダンスを禁止するなんていう訳の分からない法律なんてあるのか。
本やネット上に、関連する記事はたくさんありますが、分かりやすいものがあまりないことや、自分の考えと少し違うと思うところもあるので、書いてみようと思います。
■そもそも風営法とはどういうものか
ダンスを禁止すると世間でいわれている法律は、風営法第13条1項です。
風営法の正式名称は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」なのですが、略して「風営法」と呼ばれています。
では、風営法第13条1項を見てみましょう。
「風俗営業者は、午前零時(…省略...)から日出時までの時間においては、その営業を営んではならない」
ダンスを禁止するとはどこにも書かれていませんね。
ところでここでいう、「風俗営業者」とはなんでしょうか。
これについては風営法第2条に規定されています。
「この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう」
そして、その各号の中の4号には
「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業(…省略)」
と規定されています。
つまり、ダンスホールのある店舗を使って客にダンスをさせるような業態で営業をする人は、午前0時から日の出まではお店を開けてはいけませんよ、という決まりになっているのです。
この法律は、ダンスをする人について何らかの規制をしようというものではなくて、クラブを経営している人(もしくは経営しようとしている人)について規制しようというものなのですね。
■「ダンス」することは禁止されているのか
風営法が、クラブを経営している人を規制していることは分かってもらえたかと思います。
とすると、この法律はダンスすることを禁止していないのでしょうか。
風営法第13条1項はダンスすること自体を禁止しているわけじゃない。
クラブに行けなくなったとしても、誰かの家や路上、公園などダンスができるところはたくさんある。
ダンスなんてどこでだってできる。
このように言う人もいます。
このような意見は、「ダンス」という言葉の意味、「クラブ」という言葉の意味を全く理解していないものだと私は思います。
「ダンス」とは一体なんなのでしょうか。
「ダンス」するということを、ブレイクダンスとか社交ダンスをすることのように、言葉そのものの意味に捉えれば、確かにこの意見にも一理あるのかもしれません。
実際に、閉店後のデパートの前で、休日の代々木公園で、ダンスの練習をしている人を見かけます。
しかし、クラブという場所は、別にブレイクダンスの練習をする場所でも、社交ダンスの披露をする場所でもありません。
ジャンルによってはあるのかもしれませんが、出演者ではなくクラブに来店した客の方が、いわゆる言葉そのものの意味でのダンスをしているところなんて自分は見たことありません。
クラブに来た客がしてることって、音楽にあわせて身体を揺らすという感じですよね。
ダンスという言葉そのものから世間一般の人がイメージするものとはちょっと違うのではないでしょうか。
結局「ダンス」ってなんなのでしょうか、それはクラブという場の持つ機能を考えれば明らかになると思います。
クラブという場所が、ただ音楽が流れて、ただそこに人が集まっている、そういう場所じゃないことは、みなさんご存知だと思います。
DJのプレイ、アーティストのライブ、そしてそこに集まる人々同士のコミュニケーションによって、音楽が、ひいてはそれを取り巻くカルチャーが発展してきた現場ではないでしょうか。
音楽が流れている場所に人が集まって身体を揺らすということ自体に一番大きな意味があるわけではない。
新しい音楽やカルチャーが生まれたり、そこでの体験にインスピレーションを受けた人々がそれぞれの分野で活動していくことで、さらに新しい何かが生まれていくこと。
そういうところにクラブの機能があるのであって、クラブミュージックを愛する人々にとっての「ダンス」という言葉は、このような機能を総称して端的に表現した言葉なのだと、私は思っています。
クラブが(深夜に)営業できないことは、このような「ダンス」の現場を奪うということを意味しています。
つまり、やっぱり風営法は「ダンス」することを禁止しているのだと私は思います。
*私の意見はこのようなものですから、ダンスという言葉をふわっと広く捉えて、クラブの営業が規制されることと、社交ダンス教室の営業が規制されることとを同じように並べて批判することは、少し的を得ないものであるように感じています。
また、Let`s DANCEのウェブサイト(http://letsdance.jp/qa/)では、カラオケ店の営業が許されているのだから、ダンスを規制することはおかしい、といった趣旨の記載がされていますが、この点についても同様の理由で少し違うのではないかという意見です。
■なぜ「ダンス」は禁止されているのか
「ダンス」が禁止されていることは今まで述べてきた通りです。
それでは、なぜこんな法律があるのでしょうか。
法律がつくられた目的は、通常その法律の第1条に書かれていることが多いのですが、風営法についても第1条にその目的が書かれています。
「この法律は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする。」
長いですね。
ざっくり言えば、治安の良い社会を維持するため、そして子供達が犯罪等に巻き込まれずに健全に成長していくために、危険のある営業については規制していきますよ、ということです。
この法律が出来たのは昭和23年。
当時は、人々が集まってダンスをしていた場所で、売春や賭博が蔓延していたというような社会状況があったらしく、そのために風営法ができたというわけですね。
■現在のクラブはどういう場所なのか
では、現代のクラブというのは、このような危険のある場所なのでしょうか。
ドラッグが簡単に手に入る。
暴力事件が頻繁に発生する。
トイレで性行為が行われている。
周辺に若者がたまってうるさい。
普段クラブに行かないような人がクラブに抱いているネガティブイメージはこんなところでしょうか。
ドラッグについては、ノリピーの事件のときにクラブとドラッグの繋がりを強調するような報道がなされていたため、多くの人がよりイメージを強くしたかもしれません(余談ですが、この件に関してはQ`hey氏の当時のブログを一読して欲しいと思います。
http://qhey.blog.so-net.ne.jp/2009-08-11
暴力についても、数ヶ月前にクラブでの集団襲撃による殺人事件のニュースがテレビをにぎわせていたことがあったため、同様かと思います。
このようなイメージが現実と変わりないのであれば、確かに規制もやむを得ません。
ドラッグと暴力と無秩序な性行為とが蔓延している場所は、治安の良い社会や子供の健全な成長の実現にとっては明らかに邪魔になるものでしょう。
では実際のところはどうなんでしょうか。
自分は多くても月に2、3回程度しかクラブに行きませんが、それでももう10年くらいはクラブに行っていますので、今までの体験を振り返ってみます。
ドラッグについて、自分は直接見たことはありませんね。
暴力についても見たことはありません。実際に襲撃事件が起きているわけですから、ゼロではないのでしょうが、例えば通勤電車内のもめ事とか、週末の飲屋街でのもめ事とか、そういった類の出来事と比べて、特にクラブの中で暴力が起きやすいとはちょっと自分には思えません。
性行為についてはどうでしょう、
もちろん直接はみたことありませんが、都内のクラブの中にはトイレにコンドームの自販機が設置されているところがありますね。
この自販機がどういう意図で置かれているのかは、自分には分かりません。
周辺に人がたまるというのはたまに見かけますね。
ただ、クラブの場合、深夜から朝方にかけて客が出る時間がバラバラなので、ライブハウス等に比べると、あまり頻繁には見ない気がします。
また、居酒屋なんかと比べて、特にクラブの前に客がたまりやすいとはあまり思えません。
■結局何が問題なのか
夜中にみんなで集まってご飯を食べること、夜中にみんなでサッカーすること、夜中にみんなでカラオケをすること、基本的には自由です。
なぜ、夜中にみんなで集まって音楽を聴くことだけがダメなんでしょう。
そこにみんなが納得できるだけの確かな理由がないのなら、やっぱりこの規制はおかしい。
そして、クラブは危険な場所なんだ、ということが確かな理由になっているのでしょうか。
他のことをするのは自由なのに、みんなで集まって音楽を聴くことだけがなぜか禁止されていること、それが一番の問題なのだと思います。
■ 問題を解決する方法には何があるか
実際に風営法という法律がある以上、従わないというわけにはいきません。
経営者にとっては、自分がいつ営業停止処分を受けてしまうか分からない。
どうしたらいいのでしょう。
まず、これまで述べてきたように、クラブという場所は世間の人がイメージしているような犯罪が蔓延している場所ではないのだ、「ダンス」することはスポーツをしたりカラオケをしたりすることと変わりのないことなのだと世間にアピールすることが考えられます。
実際に「Let’s DANCE」といった団体はこのような活動をしているようです。
もちろん、世間一般の認識が正しいものになり、クラブカルチャーが法律上も尊重されるものとなれば理想的だと思います。
ただ、世間の人の認識を変えることは簡単なことではないでしょう。
クラブという現場だからこその事件であるとは思えませんが、クラブの中で殺人事件が起きたことは事実です。
また、ノリピーの件の時には、ノリピーがクラブでノリノリになっている映像がテレビで繰り返し流され、あたかも薬物とクラブカルチャーとの間に密接な関連性があるかのような印象を与える報道が行われたことも記憶に新しいです。
これらのことを考えると、数年のうちにどうにかなるようなことではないような気がしてしまいます。
ここはもう少し分析的に考えてみることにしましょう。
■ 「クラブ」と一言でいうけれども...
以前、都内の某クラブに行ったときのことです。
そこは入口に黒服が立ち、結婚式場のようなラグジュアリーな内装で、ラウンジに大きなソファーが並ぶ空間でした。
客層もいつも自分が行くイベントとは全く違い、高そうなスーツで決めた男性と結婚式の二次会でみるようなドレスを着た女性ばかりでした。
さらに、とある芸能人がソファにどんと腰掛け、ワイングラス片手に漫画のように女性を何人もはべらせていました。
自分を含め、数十人がDJブースの前で踊っていましたが、客は完全に二極化していて、それ以外のほとんどの人は音楽なんて全く気にもしていないように見えました。
自分は、いつもと同じように興味のあるDJの出演するイベントを狙って遊びに来ただけだったのですが、全く違う空気に違和感と居心地の悪さを感じたことをよく覚えています。
音楽を楽しむために人が集まるハコもあれば、音楽を楽しむことが一番の目的ではない人が集まるハコもあります。
そしてそれらは全てまとめて「クラブ」と呼ばれ、客は「ダンス」をしていると言われています。
硬派なハコやイベントが良くてチャラチャラしてるそれはダメだというような話をしているのではなくて、そもそも全然性質が違うのではないでしょうか。
性質が違うんだったら同じ法律でまとめて全部同じように規制するのはおかしいでしょう。
他方で、全然性質が違う営業スタイルの人達がまとまって、自分達の営業を規制するなと主張するのも説得力に欠けるのではないでしょうか。
深夜に店舗に人を集めて音楽を流すという業態で営業する人達がみんなで一緒になって戦うことはもちろん一つの方法だと思いますが、それらを全てクラブという言葉でくくってしまうことに無理があると自分は思っています。
■ 結局どうするべきなのか
自分達の営業スタイルは、DJやアーティストが音楽を提供し、それを客が楽しむというものに特化したものである。
そして、そのスタイルでの営業には新しいカルチャーが生まれるという尊い価値がある。
また、営業に伴い、お店の中で暴力や薬物犯罪や売春なんてない。
だから営業を禁止することはおかしい。
このような理屈で、活動を行うべきだと思うのは今まで述べて来た通りです。
そして、その活動のやり方として、もっと考えるべきことがあるのかなと思います。
例えば、先ほど触れたように都内の某クラブのトイレにはコンドームの自販機がありますが、こんなもの必要ですか。
たまたまこのクラブに来た人は、クラブというのはやっぱりそういうところなんだと逆にネガティブなイメージを強くすることになるのではないでしょうか。
このクラブの経営者がクラブのイメージ向上を本気で目指しているとは自分にはとても思えませんし、この存在を知っているのに何も言わないとしたら、他のクラブ営業者も同じではないでしょうか。
同じ理念を持ち、イメージ向上を本気で目指している人達で集まり、説得力のある活動をしていくことが必要なのではないでしょうか。
そのために、「ダンス」、「クラブ」という言葉の意味をもう一度しっかり考えてみることが必要なのではないかと思っています。
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