社説:廃炉工程見直し 「前倒し」は根拠を欠く
毎日新聞 2013年06月12日 02時30分
政府と東京電力が、東電福島第1原発の廃炉工程表の改定案をまとめた。事故発生時に運転中だった1〜3号機の原子炉に残る溶融核燃料の取り出しについて、初めて号機ごとに工程を示した。1、2号機は開始時期を最大で1年半前倒しし、2020年度上半期を目指すという。
だが、多くの不確定要素が残り、「前倒し」の実現には疑問符を付けざるを得ない。政府は、廃炉を東電任せにせず、必要な技術の研究開発を主導すべきだ。国の予算措置についても新たな検討が求められよう。
溶融核燃料の取り出しは、廃炉の工程の中でも最難関の作業となる。11年12月に作られた従来の工程表では、号機を特定せず、10年以内の開始が目標とされた。
改定案は、「前倒し」などの検討を求める茂木敏充経済産業相の指示でまとめられた。号機ごとに原子炉建屋の耐震性や放射能の汚染状況などを考慮し、工程が見直された。各号機の現状に応じた工程がまとめられたこと自体は、廃炉作業を前進させるものとして評価したい。
だが、建屋の耐震性などに問題があれば、1、2号機の溶融核燃料取り出し開始はそれぞれ、22年度下半期と24年度上半期に遅れるという。がれきが使用済み核燃料プールに落下した3号機は、建屋内の放射線量が高いこともあり、工程の前倒しができなかった。
そもそも、原子炉内部の状況が分かっておらず、溶融核燃料の正確な位置や形状も不明だ。遠隔操作ロボットの開発なども急がなければならない。溶融核燃料取り出し時は、放射線を遮蔽(しゃへい)するため原子炉格納容器を水で満たすが、容器そのものが破損しており、損傷箇所の特定と修理が事前に必要となる。
現時点で、こうした課題を解決するめどは立っていない。当初、30〜40年後とされた廃炉完了時期は、改定案でも据え置かれたままだ。
福島第1原発の建屋内に流入する地下水によって放射性汚染水が増え続けている問題は、廃炉に立ちはだかる喫緊の課題だ。改定案では、建屋周りの地中の土を凍らせて壁を作り、流入を防ぐ「凍土遮水壁(地下ダム)」を15年度前半をめどに運用開始することも盛り込まれた。
遮水性は高いが、長期間の運用実績がなく、コストも高額だ。運用の失敗に備え、汚染水をためるタンクの増設など多角的な対策を怠らないでほしい。
安倍晋三首相は「(日本は)世界一安全な原発の技術を提供できる」として、原発輸出に積極的だが、福島第1原発の廃炉に向けて世界の英知を結集することこそ、優先すべきだろう。