【目次】
1. はじめに
2. エネルギー変換と熱電材料
3. どうして電気で冷やせるの? ―電子冷却―
4. 熱からいきなり電気をつくる ―熱電発電―
5. おわりに
3. どうして電気で冷やせるの? ―電子冷却―
物質は,電気を流すと多かれ少なかれ発熱します。電気コンロなどの電熱線はこの性質を積極的に利用したものです。
また,点灯中の電球の熱さは,多くの人が知っていることでしょう。
さて,右の図のように熱電モジュールに電池をつなぎ,両面のセラミックス板を指でつまんでみます。すると,どうでしょう?
片側のセラミックス板はジワーっと熱くなりますが,反対側はひんやり冷たくなるのです。
電気を流すだけで冷たくなるなんて,めったに聞く話ではありません。冷蔵庫?
あれは,液体が気体になるときに熱を奪う性質を利用しているだけです。
注射のとき,消毒のためにアルコールで皮膚を拭きますが,そのときスーっと冷たく感じるのと同じことです。
冷蔵庫では,電気を使って気体を液体に戻す装置を動かしているのです。 |
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熱電モジュールはどうして冷たくなるのでしょうか?
その答えはモジュールを構成する熱電材料にあります。
写真では熱電材料は金属のように見えますが,半導体や半金属のなかまです。
前のページで見た熱電モジュールの構造は一見複雑でしたが,
その基本構造は右の図のようにわりとシンプルで,n型とp型の2種類の熱電材料をそれぞれ1つずつつないだだけです。
ここで,n型とは電流の担い手(電気の運び役)が電子であることを意味し,
p型とは電流の担い手が正孔(正の電荷をもち,電子のようにふるまう)であることを意味します。
なお,写真のモジュールでは,
n型として半金属の Bi2Te3,p型として半金属の Bi1.5Sb0.5Te3が使われています。
このモジュールに電池をつなぐと,n型の熱電材料のなかでは電子が電流とは逆向きに移動し,p型の熱電材料のなかでは正孔が電流と同じ向きに移動します。 |
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その様子をn型熱電材料に着目してもっと詳しく見てみましょう。
右の図は熱電材料内の電子のエネルギーを表しています。
物質内では,電子はエネルギーの低い方(図では下の方)から順に入っていきます。
また,物質には,電子が存在できるエネルギーの範囲―許容帯―と存在できない範囲―禁止帯―があります。
これは,単独の原子のなかで電子がK殻,L殻,M殻,...の順に入っていくことや,殻と殻の間には電子が存在できないことと同じです。 |
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これに電気を流すとき,すべての電子が動くのではなく,隙間のある許容帯にいる電子だけが動きます。
ぎゅうぎゅう詰めの満員電車の車内では文字通り身動きがとれませんが,少しでも隙間があれば人をかき分けながら混雑した車内を移動することができます。
物質の内部もそんな状況に似ています。
ここで,左側の金属電極の電子が熱電材料に移るときのことを考えます。
電極の電子は,熱電材料の下側の許容帯が満員のため,上側の許容帯に進もうとします。
しかし,上側に進むにはエネルギーが足りません。
そこで,左側の電極の電子は,周囲の熱からエネルギーをもらい,熱電材料のなかに進むのです。
逆に,熱電材料から右側の電極に電子が抜けるとき,電子は余分なエネルギーを熱として周囲に出します。
このため,熱電材料に電気を流すと,一方で熱を奪い(冷たくなる),もう一方で熱を放出する(熱くなる)のです。
p型熱電材料では,正孔が移動するときに,これと同様の現象が起こります。
電流により物質の両端に温度差が生じる現象は,フランスの物理学者Peltierによって1834年に発見されたので,ペルティエ効果といいます(最近は「ペルチェ」と書くことも増えました)。
この現象を応用し,実用化した製品として,アウトドア用の冷温庫があります。
冷蔵庫ではなく冷温庫と呼ぶのは,従来の冷蔵庫にはない特徴として,電流の向きを逆にするだけで保温庫にもなるからです。
つまり,冷温庫が1台あれば,夏はジュースを冷やし,冬はココアを温めることができるのです。
また,従来の冷蔵庫のような複雑な機構が無いので無振動かつ無騒音であり,さらに,フロンを一切使用しないため地球環境にも優しいという特徴があります。
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