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なぜ日本野球はメジャーリーグに勝てないか

東洋経済オンライン 6月11日(火)8時0分配信

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なぜ日本野球はメジャーリーグに勝てないか

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なぜ日本野球はメジャーリーグに勝てないか
NTT西日本で監督を務める佐々木誠(写真中央)。なぜ彼はプロでなく社会人を選んだのか(写真:日刊スポーツ/アフロ)

 1990年代に「メジャーリーグに最も近い男」と言われた佐々木誠が、現在、プロ球団の誘いを断り、社会人野球での指導にこだわるのには明確な理由がある。

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 さかのぼること12年前の2001年。佐々木はアメリカの独立リーグで1年を過ごし、日米の差を痛感させられた。

 「独立リーグで1年プレーし、日本のプロ野球で過ごした17年がバカみたいな、意味のない時間だったと感じた」

 1983年にドラフト6位でプロ入りした佐々木は、南海、ダイエー(ともに現ソフトバンク)、西武、阪神で17年間プレーし、1992年に首位打者を獲得。ベストナインに6度選出されるなど、球界を代表する左打者になった。2000年限りで阪神を退団すると、翌年にはメジャーリーグの春季キャンプに参加する。紅白戦やオープン戦で結果を残したものの、ビザや35歳という年齢がネックになり、契約には至らなかった。そこで、独立リーグでプレーすることに決める。

 「野球の原点を求めたかった。若い子やトライアウトに来ている選手は、本当に一生懸命やっている。日本がメジャーリーグに勝てない理由はそこにあると思う。独立リーグは夢をどうやって実現するかという点で、すごく厳しい世界だった」

 日本でのプロ生活と異なり、独立リーグの環境は過酷だった。選手の受け取る月収は、わずか300ドルほど。長時間のバス移動は当たり前で、18時間バスに揺られた直後に試合をしたこともある。

 「そんな環境でも野球をやりたい選手が契約して、苦労を続けるからメンタルが強くなる。日本の環境のぬるさをつくづく感じた。メジャーからマイナーリーグに落ちれば給料も下がるけど、日本では2軍に落ちても賃金は下がらないし、リリースもされない。これでは、日本の野球はメジャーに追い付かない」

 日本とアメリカの決定的な差は、競争原理の作用だ。日本の2軍選手は、大手企業に務める同年代より高い給料を手にし、一定年数はチームに在籍できることが“暗黙のルール”とされている。子どもの頃から大好きだった野球を仕事とし、周囲からちやほやされるうちにハングリー精神が薄れ、現状に満足したまま埋もれていく選手は少なくない。

 一方、アメリカでは結果を残すことができなければ、すぐにクビになる。マイナーリーグの選手は、シーズンオフにアルバイトをしなければ生計が立てられないほど給料が低いものの、メジャーに昇格できれば平均年俸は300万ドル以上。プロの最下層は低賃金だが、頑張って大きな夢をつかもうと貪欲だ。選手として向上できなければすぐに道を閉ざされるので、おのずと必死に努力する。

 そういった競争原理の違いが、指導者のメンタリティにも影響を与えている。2001年限りで現役引退した佐々木は2003年にダイエーの2軍、2004年からの2年間はオリックスでコーチを務めた。そこに広がっていたのは、いわゆる“日本的な社会”だった。コーチ人事は能力主義ではなく、縁故が重視される。指導者は現役時代の実績や、年齢を理由に選手より偉いと決め込み、頭ごなしに教える者も目についた。

■ 量より質が大事

 そんな旧態依然とした世界に嫌気がさし、2006年、佐々木は社会人野球の門をたたく。自ら売り込み、セガサミーでコーチの職を得た。社会人選手たちの姿勢に、どこか懐かしさを感じた。「社会人はみんな、野球が好きで、独立リーグの選手を見ているような感じがする。プロとは目の輝きが違って、『いくつになっても野球を続けるぞ』という点で、独立リーグと社会人野球は同じだと思う」

 佐々木は2012年からNTT西日本の監督を務めている。トレーニング指導で最も重視するのは、「土台作り」だ。基本的には、量より質が大事だと考えている。

 「頭で考え、目でとらえ、その意識どおりに動けるかは反応次第。日々の練習をしっかりやらなければ、反応なんてできない。目でとらえ、筋肉がすぐに動くようにしないとダメ。いちいち頭に入れていたら、ワンテンポずれる。野球は頭で考えて作業するのではなく、自然と体が覚えるもの。だからバットを1000回振ろうが、2000回振ろうが、意味のない1000回、2000回ならいらない。極端な話、1回のスイングに全神経を集中してできるかどうか。中身を充実させるには、集中して、回数や時間よりも1本、2本に神経を注げるかが大事」

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最終更新:6月11日(火)8時0分

東洋経済オンライン

 

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