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警告
この作品は<R-18>です。
〔残酷描写〕18歳未満の方は移動してください。
近親サイコティック監禁洗脳
…ここは、どこだ?
暗い部屋の中で目が覚めた俺は現状を理解できず混乱した。
なお悪いことに、いくらもがいても起き上がれない。手足が縛られているようだ。
そして頭に何か帽子のように何かが固定されているのも感じる。
しばらくもがいていると、突然に輝きが暗さに慣れていた俺の目を焼いた。
眩しさに思わず目をつぶるが、強い光が薄いまぶたでは遮りきらず頭が視界と共に真っ白になる。
いったい何がおきたって言うんだ、こらえきれず呻き声をあげてしまう。
10秒ほど焼かれた後だろうか、光量が下がり明るさに慣れようとしていた目では視界がかすむ。
ようやくマトモに目を開けられるようになると今まで不明だった周囲の状況が多少わかった。
薄暗いながらも目の前には電気スタンドがある。さっき俺の目を焼いていた犯人だろう。
横を見ると病院のベッドのような飾り気が無いシーツと机、そしてコンクリ打ちっぱなしの殺風景な壁が見える。

ここがどこだかわからないが、そんなことはどうでもいい。問題はそこに立ってる女だ。
その女は机の上に備えられたコンピュータとレバーのような機械を操作して俺の目をまっすぐに見つめていた。
黒髪で、背が高くて、年齢の割りに貧相な俺の妹。名前は樹里。
十数年俺と共に育って、俺を愛していて、そして俺が昨日……拒絶した女だった。
その女が俺に語りかけてくる。
「起きてくれたようだね、兄さん」
「どういうつもりだ樹里」
こうは答えたがだいたい事情は把握している。状況から判断して俺を拘束した犯人は樹里だ。
おそらく、昨日の件が関連しているのだろう。強硬手段にでたのだろう。
「どうって、決まっているじゃないか。兄さんにボクの気持ちを受け入れてもらうためだよ」
「こんなことしたって、人間の気持ちをそう変えられるものか」
どうやら樹里は俺が思っていた以上に愚かだったようだ。
体を拘束して、犯したといってそれで心まで支配できるとでも思っているのだろうか?
「昨日の問いをもう一度するね。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「樹里、オマエは妹だ。それ以外の何者でもない。あきらめてくれ。」
俺は昨日の言葉をもう一度繰り返す。昨日はそのあと口論になり、なきながら樹里が部屋に戻り終わったはずだ。
こんな問いをしても結果などわかりきっているはずなのに。
「兄さん、それなら仕方が無いね」
そういうと樹里は握っていたレバーをすばやく斜めに傾けた。
その直後、俺の脳が弾けた。臓器が焼ける。 眼球が取り出される。
突如、俺の考えうる限りのあらゆる苦痛が再現された。何も考えられない。ただただ、苦痛から逃れたくて叫び声をあげ泣き叫ぶだけ。
無限にも思える時間が経過し、ようやく苦痛が引いていく。
脈は上がり心臓が弾けそうだ。喉は枯れ、顔は涙でぬれている。考えたくないが、失禁までしている。
樹里を見ると液酸のように冷たい目で俺をじっと見つめていた。
無様な姿をさらす俺をこの目で見ていたのだろうか。そう思うと言いようの無い恐怖が湧き出した。
そうだ、どうやってかわからないが樹里こそがこの地獄の苦痛を与えた犯人に違いない。
「どうしてこんなことが……」
枯れた喉でどうにかそれだけ捻り出すことに成功する。
「兄さんの脳に電気信号で直に苦痛を送り込んでるんだ。だから、この世ではありえない苦痛も再現できる」
そんな馬鹿な……だが、俺の体に傷があるようには見えない。本当に脳だけに苦痛を与えていたのだろう。原理はわからないが。
「ちなみに、ボクが今回しかけた苦痛は最大出力の三割だね」
三割、あのショック死しても不自然ではなさそうな苦痛が三割だというのか。戦慄している俺に樹里が問いかける。
「なぜ受け入れてもらえないんだい?ボクはこんなにも愛しているというのに」
「兄妹だろうが……結ばれることが出来ると思っているのか!」
「そんなこと誰が決めたっていうんだい?世間が?」


「常識で考えて結ばれられるわけないだろう」
「兄さんが言うような常識なんて多数派が形成する意見というだけに過ぎない。ただの固定観念じゃないか」
昨日も同じような問答が行われた。違うのは樹里がいつでも俺を苦しめることが出来るということだけ。
「だとしても、俺はいまさらお前を女として見ることは出来ない」
「女としてみるよう努力することも?」
「…………できるわけないだろう」
「……もう一度いうよ、兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
俺は言葉に詰まった。おそらく否定すれば先ほどの苦痛が再びもたらされるのだろう。
だが、ここで認めてしまうわけにはいかない。俺は覚悟を決めて答えを紡いだ。
「何度でもいう、無理だ」
「今度は35」
そして俺の体はミキサーにかけられ挽肉になった。無数の刃に全身をばらばらにされてなお意識が保たれる。
脳髄が苦しみ以外のあらゆるものを認識できなくなる。自分が存在しているのか把握できない。
そして時間と共に悪魔が体から離れる。
意識が朦朧として今の状況を忘れそうだ。
樹里が真上から俺の目をまっすぐ見つめているのが再び目に入る。
俺の意識がはっきりしてきたのを見計らったのか、電気スタンドのスイッチに手を伸ばした。
再び光が目を焼くが、あの地獄の苦しみに比べればどうということはない。だが、それでも俺の集中力を奪うには十分だった。
「兄さん、ボクはね男としても家族としても愛すことができるよ」
「樹里、お前はどちらかを混同しているだけだ。あきらめろ」

樹里がまた俺に話しかける。俺を痛めつけながらどの口でそんなことをいうのだろうか。
「話は固定観念の話に戻るけどね、中世では天動説が信じられていたじゃないか。それが常識で誰も疑うことなんてなかった。
たとえ真実でなくても事実として受け入れられていたじゃないか。少なくともヨーロッパ世界の中では。
そんな例なんてボクは古今東西でいくらだって挙げることが出来るよ。
しかもね、こっちは科学的事実の話じゃなくて人間の価値判断の話じゃないか。
それに確固たる真実なんて原理的に存在し得ない。にもかかわらず兄さんはそんなことにこだわる?」

「たとえそれがあいまいなものでも現時点ではそれが常識だ。そして、俺もその考えを持った多数派の一員だ」
樹里の言うことはなんとなく理解できる。だが、俺もその価値判断をもった人間の一人だ。それは樹里がなんと言おうが事実だ。
「そんな固定観念なんて捨てれば良いじゃないか。
でも、難しいのはわかるよ。ボクだってお星様が上空1キロの空に浮かぶ火の粒で簡単に消せるなんて考えになることは難しい
心に硬く息づいた考えを変えるのは非常に困難だ。でも大丈夫、ボクが矯正してあげるから」
樹里は普段のおとなしい口調とは打って変わって熱を帯びた声で演劇のように演説する。
「さて、もう一度聞くよ。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「あきらめてくれ」
俺はいつまで耐えられるのだろうか…

あれからどれだけの時間がたったのだろうか。数百年にも感じるし一時間足らずにも感じる。
樹里は演説の合間に拷問を続けている。何度も地獄と劇場を行き来して気が狂いそうだ。
形容しがたい苦しみで自らの思考を放棄させられ、その直後に我がシスターが暗示のように語りかける。
コレで正気を保ち続けるのは無理だ……
普通の外的な痛みなら多少は慣れてしまうことが出来る。だが、脳に苦痛の状態を直接作り出されてはどうしようもない。
意識が朦朧としつつあるある俺に再び言葉が降りかかる。
「そもそも妹としてというのはどういうことだい?それも兄妹とはかくあるべきという固定観念の産物だよ。
昔は女性が非常に軽視されていた時代があった。その時代に同じような価値観が普遍的だったと思うのかい?
ボクは似たような話をさっきから何度もしているじゃないか?どうしてそんな考えを捨てられない?」
もうすでに内容はうっすらとしか把握できていない。ただ束の間の安静で息を吹き返し次の地獄に備えるだけだ。
「ボクと結ばれることで幸福が得られるだろうことは兄さん自信も認めていることじゃないか。
料理だって出来るし、家事もそつなくこなす。頭もいいし、兄さんが困らないだけのお金だって用意できるよ。
それに、いくらだって抱かせてあげよう。知ってるんだよ?ボクの下着やらなにからチラチラ普段から見ているのは。
足腰も鍛えているから締まりも悪くないと思う。
兄さんのICBMをボクの硬化サイロ内で射出してかまわない。もちろんホットローンチだ。」
だが、この意識が朦朧とした状態で語りかけられるのが一番の曲者ではなかろうか。
表面の意識が飛ばされている分、自分の深層心理に直接的に書き込まれえていきそうな錯覚がする。
というよりもう限界だ。この苦しみから早く逃れたい。早く外界に戻してほしい。
「さて、もう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「…………わかった、そうする。そうするから早く」
喉はすでに枯れはて、壊れた低音の金管楽器のような声しかでなかった。
「今回は70」
.
.
.
.
すべてが無と化すような苦痛だった。それが苦痛であったことすら後から認識される。
ここまでの苦痛を与えられたことはこの拷問の間ですらなかったことだ。
どのようにもがいたのか分からないがよほど暴れたのだろう。手足の枷と擦れて血が流れていた。
今まで以上に変な汗が全身から滝のように流れ出し、心臓がかつてないほど激しい鼓動を刻んでいる。
なぜだ!俺は認めただろう!わからない、何が何だか分からない。
「違うんだよ兄さん。今のは真にボクを愛する意思が出来ての言葉じゃない。
ただ、この苦しみをどうにか終わらせてほしいだけの言葉だ。それくらいは分かるよ。
ボクが求めている言葉はそんなものじゃない。ボクが欲しくて欲しくてたまらなくて自分だけのものにしたくて何千回でも何万回でも抱きたくて
…ちょうど、ボクが兄さんを求めるように…そんな言葉を欲しているんだ」
樹里はさっきから上気した声で演説を続けているが、声がさらに艶っぽさを増してきた。
無茶苦茶だ。もし俺が心からそんな言葉を発したとして、どうやって見分けるというんだ……
いや、コイツなら可能なのかもしれない。コイツは本気だ。本気で俺の精神を根本から覆そうとしている。
その狂気に改めて戦慄した。人間を人形か何かだと思っているのだろうか。
「……俺を洗脳して、こんな方法で洗脳して得た愛なんかに価値があると思っているのか」
「あるよ。これ以上はない価値がある。
そもそもね、恋をさせるってのは相手の精神を大なり小なり変革させることに他ならないだろう?
容姿で、言葉で、仕草で、その他あらゆる方法で意中の相手を射止めようとする行為はすべてそれだ。
そして恋をした側も相手の何かに心を奪われた……つまり相手が無意識的に変革してしまったんだ。
翻ってボクたちを見ると、同じことじゃないか。ただ人とは手段が違うというだけで。」
樹里の目がいくらか温かみが増したように感じた。
だが、今の俺には悪魔の目としか見ることが出来ない。いったいどうしてこんなことになったのだろうか。
本当は俺が異常で、実は樹里のほうが正しいのだろうか。いや、そんなはずはない。
だんだんと思考が犯されているのがわかる。
「さて、ここでもう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「欲しい。お前が欲しい。だから」
「今は35」
全身がムシに細胞の一つ一つをむしられる。木星の重力を全身に引き受けるような圧力で押しつぶされる。
いったいいつまで続けば許してくれるんだ…
そして手術台に突然戻される。いくら懇願すればいいのか分からず絶望のなかで途方にくれる。
「一つ聞くけど、ボクが兄さんをここまでして愛してもらおうとするのはなぜだか分かるかい?」
「俺のためだ、俺はお前と結ばれることで幸せになれると確信しているからだ」
これはなんとなく分かる。樹里は昔からおせっかいなやつだった。俺のためと言いながら結局はありがた迷惑なこともあった。
今回も似たようなことなのだろう。
「30」
すり鉢で体をペーストにされた。脳髄を砕かれる感覚が仮想的に何十秒も継続する。
取調室に戻った俺は今まで以上に混乱した。
俺が半ば確信を持っていた答えが間違いだったとでもいうのか。それなら、いったい何のためにこんなことを。
「失望したよ兄さん。もちろん今まで同様に愛しているけれど、兄さんの理解力に失望したよ。
そんな軟弱で奇麗事で対外的な言い訳のような言葉を聴かされるとは思わなかった!
いいかい兄さん。人に愛してもらう理由なんかただ一つじゃないか。ボク自身のためだよ。
自分が幸せになるため。自分が満たされるため。自分のため。すべて自分のためだよ。」
そんな馬鹿な。樹里は、結局は俺の事なんか見ていないのか?
俺が困惑している間も樹里はよりいっそう興奮した声で浪々と演説する。
「相手の幸せなんてものはそれを達成するための二次的な目標ないし副産物に過ぎない。
ボクも兄さんが幸せならとっても幸せだ。だから自分のために兄さんを幸せにする。
相手のためを思ってなんてのも、究極的には自分のためなんだよ。
無論、自己利益追求を常に優先させては見苦しさを演出するから、長期的な目線に立って考えねばならないけど。
相手の幸せのために自分の幸せを逃してしまうような底抜けの愚か者は、ボクから言わせてもらえば素人さ。
手段であった奇麗事を目的化して道を誤った馬鹿など泥棒猫に寝取られて当然だ。」
樹里の言うことは俺にも理解できないわけじゃない。だが、人としてそれを認めるのはどうかと思う。
「でも安心して兄さん。ボクは人形と化した兄さんに愛されても喜び薄い。ちゃんと兄さんの人格がないとね。
だから、ちゃんと妹に関する倫理観だけピンポイントに変えてあげちゃうから安心して。」
この期に及んで何を言うのか。だが、たしかに俺はまだちゃんと俺のままでいるのは確かだ。
樹里が本気を出せば俺を物言わぬ廃人とすることも、操り人形のようになった俺にすることも可能だったろう。
少なくとも廃人にはされない、そのことだけが今の救いだった。
「さて、もう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
もう笛のような音しかでない喉でかろうじて答える。
「もちろんだ」
だが、樹里は無慈悲にレバーを倒した。
「今度は32」
苦しみの中で樹里の声が反芻していた。
早く開放されたい。だが、まだこの狂乱は続きそうだった。

…………もはや永遠とも感じられる時間をこの狂気の中ですごしていた。
樹里の想いを拒絶したあの日が遠い昔のように思える。
いや、そもそも普通の生活と言うものが思い出せなくなりつつある。
自分の世界は最初からこの苦痛のみであったのではないか……
いつの間にか思考すら放棄していたのだろうか、よくわからない空白感を感じていた。
「さて。兄さん、ボクのことを女として愛してくれるかい?」
もう何もわからない。
そもそも何故、樹里を拒絶したのか。それすら今の自分には説明できない。
愛とはなんだ。女としてとはどういうことなのだろうか?
わからない。いったいどういうことなのだろう……
「わからない。わからない。」
無意識に口に出ていた。
「兄さん、詳しく聞かせてくれ。」
状況に久しぶりに変化が訪れる。
俺の言葉を認識した瞬間、樹里の表情が一変した。
唇は右端がつりあがり、同時に右目に力が入り薄ら笑いのように細まる。
対照的に左目は極限まで見開かれ、俺を深遠まで見通そうとしているようだ。
長年共に生きた俺でも、こんな表情などかつて見たことがなかった。
あえて形容するなら、獲物を目前にした肉食獣のような。そんな気がした。
俺はそれに対して、ただただうわごとのように同じ言葉を繰り返すだけだった。
何回つぶやいただろうか。 いきなり眼前の電気スタンドが消され床に押しのかれる。
樹里は拘束された俺の体の上にゆっくりと四つん這いになると、俺の顔を正面から覗き込んだ。
目を見開き俺の目にじっと焦点を当て続ける。
そして先ほどの熱を帯びた口調から一転、冷たくゆっくりと語りかける。
「じゃぁボクが教えてあげよう。愛情に血縁は関係ない。近親相姦は禁忌などではない。復唱して。」
「愛情に血縁は関係ない。近親相姦は禁忌などではない。」
ほとんど反射的に復唱していた。そうか。そうなのか。よくわからないが、樹里が言うのならそうなのだろう。
「もう一度」
「愛情に血縁は関係無い。近親相姦は禁忌などではない。」
「もっとだ!もっと言うんだ兄さん!」
樹里の声が再び昂ぶっていく。
同じやり取りを繰り返すうちに樹里は次第に下半身を支えていた脚を伸ばし俺の脚に絡めてきた。
今ではすでに腰から下が完全に密着して体重を俺に任せている。
絡み合う下半身から樹里自身の熱が直接伝わってきた。
もう何十年も温かさを感じていなかったように感じる。久々の温もりに思わず安堵した。
その熱は包み込むように温かくて、かつ焼けるように熱い。
下腹部からは興奮で荒くなっている樹里の呼吸を感じることも出来る。
その熱さと対照的に俺を覗き込む樹里の表情だけはまだ冷たいままで、そのアンバランスに心を揺さぶられた。
しばらくそれが続くと、ついに樹里が無言になる。
ただただ沈黙の時間が流れ、ついに上半身も覆いかぶさってきた。
徐々に熱と圧力を受ける面積が広がってくる。
やわらかい胸がギュっと押し付けられた。同年代に比べ小ぶりだが、服の上からでも柔らかさを感じられたようだ。
樹里の体温と重さだけが今の俺の全感覚を支配していた。
「兄さん、もう疲れたろう。もう眠っていいよ。」
耳元で睦言のように囁かれる。もう眠っていいのか…………
樹里の温もりに包まれながら、俺の意識は溶けるようにまどろんだ。











心地よい眠りから意識が戻る。
周りを見渡すと、俺はいつも使用するベッドの上にいた。
窓からは朝日が差し込んで部屋を照らしている。いつもと変わらない朝の風景。
間違い無く普段どおりの自分の部屋だ。足が金属の輪で拘束されベッドを離れられなくなっていること意外は。
前と変わりないのかと不安になったが手は自由に動かせるようだ。目の前で拳を開け閉めするが正常に動く。
手首に残った傷跡が痛々しいが手当てされたあとあった。ふと気が付いて頭を探る。アレをまたされてはたまらない。
とりあえず手で触れる範囲ではごく普通だ。思わず安堵のため息をつく。
数秒間だけベッドに体を任せて悪夢について考えていると、樹里が右側にある扉から入ってきた。
「やぁ、兄さんおはよう。ご飯持ってきたよ」
食器搬送用の手押し車を押しているのが見える。どこから用意したのだろうか。
ここの状況だけ見ればホテルのルームサービスのようだ。
「タイミングがいいな」
まだすこしかすれた声だった。どれだけ喉を酷使したのだろう。
しかし、よく考えればここまで絶妙のタイミングで入ってこれるのは不自然だ。
すると、樹里はいきなり神妙な表情を作りどこかふざけたような声で言った。
「ふふん、兄さんは見られてる」
……見られてるってのは監視的な意味でなんだろうな。
樹里の手によって朝食がベッドに横付けされた。これはベッドの上で食えと言う意味か。
丼いっぱいに盛られた白飯に四人前はありそうな大盛りのおかゆ、バケツのようなサラダボウルいっぱいの野菜……
見た目やら繊細さはまるで無視して量だけを追求したような料理。どこかの貧乏学生ご用達の食堂みたいだ。
だが普段の俺からは考えられないが、その圧倒的物量を見る見るうちにたいらげてしまう。
美味かった。本当に美味かった。
おそらく原因は異様な空腹感だ。もう何年も食べていないのかと錯覚するほどだった。
空腹こそ最高の調味料と言う言葉を身にしみて理解した。
最後のほうになるとさすがに満たされてきて、今ではすこし腹がキツイくらいだがそのキツさがむしろ安心できた。
満腹感に満たされベッドに倒れこんだ俺に冷水の入ったコップが手渡される。
体を再び起こして喉を潤す。清冽に油っぽさが流されてさわやかな心地だ。
ただの水がこんなに美味いと思ったのははじめてなんじゃなかろうか。


「兄さん、デザートも用意してるんだけど。」
樹里が俺に小包を差し出してきた。
正直、腹いっぱいだったが包装を開けて中身を確認する。
そこにはハート型の黒い菓子、つまりはチョコレートが入っていた。
「バレンタインには少し遅れたけど……本命も本命だ。受け取ってほしい。」
樹里はいつもどおりの表情でそう俺に告げる。
だが顔色はといえば赤化してるのがはっきりとわかる。いつから共産主義者になったのか。
というかバレンタインには遅れただと?
「ちょっと待ってくれ、今日は何日だ?」
「2月の17日だ。3日遅れだね」
俺の記憶ではっきりと日時がわかるのは2月12日。
あの暗い部屋の中で5日間経っていたのか。五日"しか"というべきか"も"というべきか。
「時間経過を知りたいんだね?
まず兄さんを拘束したのが12日の深夜、兄さんが起きて交渉が始まったのが13日の朝。
そして15日までぶっとうしで交渉して終わったのが正午ごろ。そのまま丸一日眠って今に至る
とまぁこんな感じだよ」
よく考えればその時間丸々、コイツは起きてあの演説を続けていたのか。ずいぶんと元気なものだ。
それとも愛のなせる業か…………
そして意識を眼前のチョコレートに戻す。
これを受け取るということは樹里を受け入れるということだ。樹里も俺がどうするのかを全力で窺っている。
俺はこの三日遅れのチョコレートを…………一気に口に含んだ。
口で溶かさずに咀嚼するとチョコ特有の風味が口腔内に広がる。
そして間髪いれずに樹里の後頭部に手を回して引き寄せ口付け。
こういう経験が無い俺はくちびるの柔らかさに戸惑いつつも感動する。
樹里を拘束している腕からかんじる首筋の温もりをもっと感じたくてさらに強く抱きしめる。
それだけでは我慢できないから、手を襟から服の中に進入させ背中を直接まさぐった。
自分が何をされているか樹里はよく把握できていない様子だった。
この混乱に乗じて樹里の口腔内に第一梯団としてチョコレートが随伴した舌を突入させる。
突破に成功した舌が樹里の歯にかち当たると迂回機動を取ってその奥へと侵入。
そのままの流れでOMGとして噛み砕いたチョコを無停止進撃させるよう試みた。
が、混乱から回復した樹里がやはり舌を用いて迎撃行動を始めた。
俺の舌に付いたチョコを削ぎ落とすように絡め取ってくる。その甘美な感覚にクラクラした。
戦線が樹里の口腔内で膠着しつつも激しい攻防戦が続く。このまま全面核戦争へと突入しそうだ。
俺は今、樹里を心から愛していた。
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