イマジン:第3部 えらぶ/4 ネット投票、政治変える エストニア、国民の権利重視
毎日新聞 2013年06月11日 東京朝刊
システム開発を手がけたエストニアの情報通信技術(ICT)大手、サイバーネティカのアンスパー開発主任は、不正やトラブル発生に備え「想定される懸念には徹底的に対処した」と話す。07年のサイバー攻撃の際も、担当者が断続的に対応し、国内サービスにはほとんど影響が出なかった。万が一、トラブルが発生しても、後から修正ができるシステムが整えられている。
国民の「選ぶ」権利と利便性を徹底的に追求したシステムを知ると、日本は本当に投票機会確保に向けた努力を尽くしているのか、と考え込まされる。
ネット投票の安定的な実施を可能にしているのは、徹底的に整備された電子政府のインフラだ。
政府は独立直後の1990年代半ばからICTを国家戦略の中核に据え、予算の1%を関連投資にあててきた。全世代を対象とするIT教育も推進した。
ネット投票の効果は投票率にも徐々に表れている。導入前は低下傾向だった国政選挙の全体の投票率は、07年は3・7ポイント、11年は1・9ポイント、それぞれ前回を上回った。
「投票意欲は政治への関心の程度に左右される。利便性だけ高めても意味がない」(タリン大学政治・統治研究所のツーツ教授)と、辛口の指摘がある一方、「欧州各国で投票率が低下する中、上昇に転じたのは大きな効果」(ビンケル氏)との指摘もある。
若手IT起業家で11年の国政選挙で政界進出を果たしたコロベイニク氏(32)は「若者や、都市部のホワイトカラーを、政治家は意識せざるをえなくなった」と、その効果を強調する。
11年の選挙では、当選者の平均年齢が03年比で1・6歳低下した。各議員はフェイスブックやメールなどを使った選挙活動に力を入れる。コロベイニク氏もこれらを駆使して若年層に直接働きかけて支持を広げた。「ネットでの投票が、さらに容易になれば、若者の投票率はもっと上がる。特定の利益団体が力を持つ政治が変わるきっかけになる」
「小国だから導入できた」(日本政府関係者)のだろうか。
首相補佐官(ICT政策担当)のシクット氏は「日本には優秀な人材や技術がある。新しいことに挑戦しないと、社会の発展はない」と話す。「どうやって生き残るか必死で考えた時、IT化で政府の効率を高め、徹底的にビジネス環境を整備することに行き着いた。ネット投票は10年にわたり、それをやりきった政治の強い意志の結果だ」。シクット氏は、そう言い切った。=つづく
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