イマジン:第3部 えらぶ/4 ネット投票、政治変える エストニア、国民の権利重視
毎日新聞 2013年06月11日 東京朝刊
7月投票の参院選から、選挙期間中でもインターネットでの選挙活動が解禁される日本。ネットを使った選挙に「第一歩」を踏み出したとの評価がある。だが、日本とは異次元の世界までネット選挙を進めた国、エストニアから見ると、その取り組みは、あまりにも遅いと映る。
「日本は、導入しない理由ばかりを探しているように見える」
こう話すのは、エストニアの首都にあるタリン技術大学のタミット教授だ。「紙の投票でも用紙の紛失や、他人へのなりすましはある。日本ではネットバンキングが普及している。それなのに、選挙になると『危険』だと全否定するのは疑問だ」との指摘だ。
日大の岩崎正洋教授(政治学)も「日本人は、ネットバンキングは信頼しているのに、選挙になるとネットは信用できない、というのは不自然な気もする」と話す。
バルト3国の小国・エストニア。旧ソ連から独立して20年余りのこの国は、2005年、世界に先駆けて地方選でネット投票を導入、これまで国と地方で5度の実績を重ねた。11年の国政選挙は投票者の4分の1が自宅や職場からネットで投票した。
「慣れれば5分で済みますよ」。エストニア国家選挙管理委員会のビンケル選挙部長は、ノートパソコンの見本の画面で投票を実演してくれた。
パソコンに身分証明(ID)カードを差し込み、選挙用画面でパスワードを打ち込んで本人確認した後、選挙区の候補者一覧から選ぶ。最後に別のパスワードで「電子署名」すれば完了だ。
ネット投票ならではの多重な機能も盛り込んでいる。
パソコンの「上書き」機能を生かし、投票日4日前までの1週間なら、何回でも投票をやり直せる。新たな選択が「上書き」され、有効となる。
投票所で紙で投票する従来のシステムも併用する。ネット投票に不信を抱く人や、ネットを使えない人にも配慮している。事前にネットで投票を済ませた人が、投票日に紙で投票することも可能だ。ネットでの投票は削除される。
外国からも同じ手続きで投票ができる。11年からは携帯電話でも投票が可能になった。「エストニアは小国なので外国に出稼ぎする人が多く、雪の季節は投票所に行けない人も多い。すべての人の投票機会を確保するのは政府の義務だ」。国民の選ぶ権利を重視し、多様な仕組みを整えていると、ビンケル氏は胸を張る。
エストニアは07年4月に、国家機関を中心に大規模なサイバー攻撃を受けたことがある。セキュリティーが心配になる。