社説:医療事故調 信頼確立の第一歩だ

毎日新聞 2013年05月31日 02時32分

 医療には予測できないことが起こる。全国の医療機関での「予期せぬ死亡事故」は推計で年間1300〜2000件ある。突然、肉親を亡くした遺族が失意と混乱の中でどうして事故が起きたのか原因解明と説明を求めるのは当然だ。医療側にミスがあれば謝罪を求め、責任追及し、金銭的な賠償が必要な場合もある。再発防止を祈念する遺族も多い。

 ところが、現実には医師から納得できる説明がなされることは多くなく、責任追及を恐れて医療側が口をつぐむと原因解明は進まず、再発防止にもつながらない。単純ミスやカルテの隠蔽(いんぺい)、同じ医師が事故を繰り返すケースもあって民事訴訟は後を絶たない。一方、刑事訴追された医師が無罪となり、医療側から強い批判が起きたこともある。医師らはリスクの高い産科や小児科を避けるようになり、病院や診療科の閉鎖の原因となっているとも言われる。いくつもの矛盾が重なって医療不信と医療崩壊の震源となっているのだ。

 航空機や鉄道事故の調査委員会のように、責任追及とは別に独立した機関による原因解明が必要だ。厚生労働省の委員会がまとめた医療版事故調査制度(医療事故調)によると、死亡事故について調査する民間の第三者機関の設置とともに、全国の病院や診療所、歯科診療所、助産施設など計18万施設に院内調査と調査結果の報告を義務づける。院内調査には外部の医師も加えて客観性を担保するが、遺族が納得できない場合は第三者機関が改めて調査する。第三者機関は警察へは通報しない。

 報告を義務づけられることに医療側から懸念の声も出ているが、患者や遺族が納得できる原因解明のためには不可避だろう。問題は第三者機関の性格だ。国内の多数の医療団体が参画して事故調査の実績を積んでいる一般社団法人「日本医療安全調査機構」(東京都港区)が検討されているが、公平性や実効性を高めるために調査権限や独立性をどう規定するかは重要だ。また、小規模病院や診療所の場合、院内調査には医師会や大学病院の協力が必要だ。調査結果の公開や捜査機関との調整、患者の費用負担をどうするかなど煮詰めるべき問題は多い。

 医療事故調は患者や関係団体が以前から必要性を訴え、厚労省は設置法案の原案も作成したが、責任追及を恐れた医療界からの反発もあり、民主党政権下で動きが止まっていた。今回の医療事故調は医師と患者双方の信頼を確立するものにしなくてはならない。第三者機関が警察へ直接通報することはないが、遺族には医師側の過失が明らかで刑事訴追の恐れがある内容も伝えるべきだ。信頼は真実を隠したところには生まれない。

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