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特集社説2013年06月03日(月)

「医療事故調」発足へ 原因究明と再発防止のために

 厚生労働省の検討部会が、医療事故調査制度の概要をまとめた。
 診療行為に関連して予期せぬ患者の死亡事例が起きた場合、国内の全病院・診療所と助産所計約17万施設に、届け出と院内調査の実施を義務づけ、中立的に調査する民間の第三者機関を創設することなどが柱。今秋の臨時国会への改正案提出を目指す。
 医療事故の被害者らにとって、「医療版事故調」の創設は長年の悲願。厚労省が2008年、調査法案の大綱案を公表してからでも5年が過ぎた。遅きに失したとはいえ、曲折を経てようやく新制度実現のめどが立ったことは大きな一歩と評価できる。
 厚労省の試算では、診療関連の死亡事例は年1300〜2000件。初の全データ収集・分析の意義と、医療版事故調に寄せられる期待は大きい。なぜ命を落としたのか、「真実を知りたい」との遺族の願いに応え、医療側の誠実な対応を促し、両者間の誤解や無用な対立を解きほぐして「原因究明と再発防止」につなげられるよう、公平で血の通った制度運用を強く望みたい。
 今回の案では、原因究明は一義的に当事者に委ねた。まず院内調査を実施し、結果を遺族と第三者機関に報告。遺族の納得がいかず、請求すれば第三者機関が再調査する。
 当該医療機関が内部調査すべきなのは当然で、2段階の仕組みも妥当だろう。ただ、これまで説明が不十分だったり、隠蔽(いんぺい)や証拠改ざんも多々あったことは事実。医療側は08年の大綱案の、悪質な事例は警察に通報するとした点に強く反発、制度の導入を遅らせた。個人の責任追及が制度の主眼ではないことは論をまたないが、一方で「身内の調査」への不信感が根強いことも自覚せねばならない。
 今回、院内調査に「原則として外部の医療専門家の支援を受ける」ことが盛り込まれた。義務化には至らず、専門家の人選や客観性に懸念も残るが、開かれた調査を目指す方向性は望ましい。
 半面、第三者機関の調査費用の一部を遺族に負担させる案も出た。しかし、少額であっても遺族側の萎縮につながりかねず、容認できない。
 多くの遺族は、医療者個人を辞めさせたり、医療機関と敵対することを目的としているわけではない。すべての医療現場が遺族の痛みに寄り添い、説明を尽くして自浄能力を発揮すれば、真相究明のための訴訟も医療事故も、おのずと減っていくだろう。
 調査は、病院が組織として責任を負い、過失があれば謝罪し、システムを改善して二度と同じような事故を起こさないためのもの。「何のための調査か」を忘れず、医療の信頼性と安全性の向上に資する制度に育ててもらいたい。

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