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バッタもん日記

2013-06-09

「奇跡のリンゴ」という幻想 −安物の感動はいらない−

1.はじめに

昨日、「奇跡のリンゴ」という映画が公開されました。「無農薬肥料栽培でのリンゴの栽培に成功した」と自称している、木村秋則という青森県のリンゴ農家の物語です。
その影響か、私のブログ記事にコメントが集まっております。1年以上前の記事だというのに。
この作品に対して言いたいことは山のようにあります。私に限らず、既に様々な方が疑問を呈しています。詳しくは、以下のサイトをご覧下さい。
無農薬・無肥料栽培への私見(木村りんご園)
話題の“無農薬りんご”について(工藤農園)
スチュワーデスが見える席(日経bp Tech-On)
「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」現象を追う〜(農業技術通信社)

この「奇跡のリンゴ」に対する農学的な批判は後日行うとして、今回はなぜこの「奇跡のリンゴ」という物語が好評を博しているのかを考えたいと思います。ただし、「奇跡のリンゴ」が「無農薬・無肥料栽培」ということは全くの嘘であるということだけはこの場で述べておきます。


2.感動を売り付けるメディアと感動を求める消費者

(1)感動の大安売り
いつ頃から始まった傾向なのかはわかりませんが、最近マスメディアで「感動」という言葉が発せられる頻度が上がったような気がします。オリンピックサッカーワールドカップ、野球のWBCなど大きなイベントがある度に「感動した」「感動をありがとう」という表現が盛んに用いられます。また、映画が公開される度に、観賞後の客にインタビューして「感動しました」「泣きました」と言わせるCMもいつの間にやら製作されるようになりました。感動を求める一般市民と、感動を提供するマスメディア利益が完全に一致します。マスメディアは常に感動の素材になりそうな物語を探しています。今回はそれが「奇跡のリンゴ」だったというわけです。

映画の公式サイトを見ると、「感動の実話」という文字が躍っています。最初から感動を前面に押し出しています。
物語の粗筋は以下の通りです。

木村氏はもともと農薬を使ってリンゴ栽培を行っていたが、妻が農薬が原因で体調を崩したことから、無農薬のリンゴ栽培を始めた。しかし無農薬栽培はうまく行かず、収穫が全くないという状況が長年続いた。失意と極貧の中で自殺まで考えたが、結局無農薬栽培に成功し、一躍有名になった。現在は無農薬・無肥料栽培を普及させるべく、全国を飛び回る日々である。木村氏がこれまで信念を貫き通せたのは妻をはじめとする家族や周囲の人間の支えがあったからこそである。

早い話が、農業の名を借りた「感動の人間ドラマ」です。
また、全ての発端である書籍について、担当編集者は以下のように語っています。

「実は農業本として出しているつもりはないんです。この本のテーマは“困難にぶつかった時、人はどう乗り越えていくか”であり、その普遍性が共感を呼んだのではないでしょうか。またこの本は木村氏に対する賛否両論を取り上げて、業績をジャーナリスティックに検証する本でもありません。あくまでも木村氏という対象に寄り添って、成し遂げた部分にスポットライトを当てたかったんです」
出典:上記の「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」現象を追う〜

この説明を邪推に基づき要約すると、以下のようになります。

「事実かどうかなんてどうでもいい。何も考えずに感動しろ」

私はこれこそがこの「奇跡のリンゴ」という物語の本質なのではないかと思います。事実の検証を軽視するのならば、「実話」ではなく「フィクション」と銘打つべきだろうと思います。フィクションならば何をやっても構いません。

映画の公式サイトを見ると関連書籍が紹介されていますが、全て幻冬舎という単独の出版社から刊行されています。つまり、この「奇跡のリンゴ」なる物語は、幻冬舎によるメディアミックス戦略における「商品」です。だからダメだというつもりはありませんが、この映画を見て感動している方々は、マスメディアの掌で踊らされているだけだということを知っておくべきかと思います。

(2)ファンタジー
木村氏はよく常軌を逸した発言を行っています。「宇宙人にさらわれてUFOに乗った」「龍を見た」「幽霊を見た」などです。書籍でもよく述べています。以下のサイトが参考になります。
映画『奇跡のリンゴ』の木村さん「龍や宇宙人を見た」(日刊SPA)
2012年オリオン座の星が爆発? 木村秋則氏が懸念(日刊SPA)

普通に考えれば、このような発言を繰り返せば主張全体の信頼性が下がります。「こんなホラ吹きの言うことは信用できない」という具合に。本来ならば周囲が止めるはずです。あろうことか、脳科学者の茂木健一郎氏は、書籍「すべては宇宙の采配(東邦出版)」の帯で、次のように述べ、全面的に肯定しています。

木村さんが出会った信じられない体験。それは、木村さんにとっては幻覚ではなく、紛れもない真実である。自分が出会ったことを真正面から受け入れる真摯さ。だからこそ、木村さんは「奇跡のりんご」を作ることができたのだ。

無農薬肥料農業が可能か」というのは純粋に科学的・経済的な問題です。収穫量や販売額などの数字に基づき、冷徹な考察が必要です。UFOやら宇宙人が出て来た時点で主張全体が学術上の価値を失ってしまいます。無農薬肥料でのリンゴ栽培に成功したと言うが、どこまで本当なのか」という疑いが生じるからです。ところが、この物語を「感動のファンタジー」だと考えれば、この怪しさは物語を彩るスパイスとなり得ます。ファンタジーだから何が登場したって構わないのです。

また、この物語の中で、「声を掛けたリンゴの木は育ったのに、声を掛けなかったリンゴの木は枯れた」という話があります。「植物は人間の言葉を理解する」というのは古典的なヨタ話です。この例では、「単なる勘違い」「思い込み」「声を掛けた木だけ無意識の内に丁寧に管理した」などの理由が考えられます。これも冷静に考えれば非常に怪しい話ですが、ファンタジーにおいては魅力的な小道具となります。「水からの伝言」とも関連しますが、「人の言葉、人の思いは植物を、世界を変える」と思いたい人は多数いますからね。

(3)安易な夢
農業に関心がない方々でも、現代の農業が様々な問題を抱えていることは何となく知っています。特に農薬に関しては、漫画「美味しんぼ」などの悪影響もあって、「環境にも消費者の健康にも悪い」という考えが強固に定着しています。そんなところに、「農薬肥料なしでも農業はできる」と豪語する物語が現れたのですから、歓迎されるのは当然です。「本当に農薬肥料なしで農業ができるのか」という根本的な疑問は頭に浮かびません。「夢」や「バラ色の未来」とでも言うべき空手形に飛び付いているわけです。非現実的な甘い夢を見させてくれるわけですから、魅力的に思えるのも当然です。

(4)素朴な田舎のお爺さん
本人の公式サイトをご覧になればわかると思いますが、木村氏は非常に味のある外見を有しています。実に素朴で善良な田舎のお爺さんといった風情です。歯がないのは、リンゴ栽培に失敗している間、生活のために夜の繁華街でアルバイトをしていた際に暴力団員とトラブルになり、殴られて折れたためだそうです。いつでも楽しそうに笑い、方言で明朗に喋るようです。非常に魅力的な人物と言えるのかも知れません。外見に騙されているとまでは言いませんが、この外見のおかげで信頼度が上がっているということは大いにあると思います。「こんないい人が嘘をつくはずがない」と。実際はホラばかり吹いているわけですが。


3.おわりに

上にも述べましたが、農業問題を考える上での大原則は、科学と経済に基づく合理的な判断です。「感動物語」は農業に関心を持つ切っ掛けとしてはいいと思いますが、農業を考える上での思考の基本となっては困ります。
「奇跡のリンゴ」という物語に感動するのは個人の自由であり、何ら批判されるものではありません。個人が「無農薬肥料でも農業ができる」と信じるのも自由です。しかし、それが実際の農業の現場に影響するのは大問題です。既に全国各地の農家に「なぜお宅は無農薬栽培を行わないのか」というクレームがあるようです。上に挙げた「工藤農園」のサイトで少し触れられています。この映画の影響で、理不尽なクレームがさらに増えることを危惧します。
安易な感動物語により、農薬を使う農家が悪人扱いを受けるような事態にならないよう願っております。



さっそく追記
『「無農薬・無肥料栽培」ということは全くの嘘である』という点について

農薬の代わりに酢とワサビ製剤を使用していることを明言しています。酢は特定農薬ですし、ワサビ製剤に至っては無登録農薬です。この時点で「無農薬」は大嘘です。
ワサビ製剤の販売サイトでは、「農薬ではない」と明記しています。農薬ではない物を農薬として使用しているのですから、農薬取締法違反です。
また、「自然栽培ひとすじに(創森社)」という書籍では、以前に天ぷら油と石けんを使用していたと述べています。これも無登録農薬です。

肥料については、農地に大豆を植えて窒素固定を行わせ、土壌に窒素を供給していることを明言しています。また、刈り取った雑草を土壌に鋤き込んだりもしています。これを「緑肥」と言います。そのため「無肥料」ではありません。

ぶんgぶんg 2013/06/10 01:43 “盗人にも五分の理”とか言うぐらいだから大目に見たらと思うよ。

科学哲学というジャンルもある科学哲学というジャンルもある 2013/06/10 11:03 「酢は特定農薬ですし、ワサビ製剤に至っては無登録農薬です。」
これがその通りならNHKは検証しなかったのか。木村氏よりNHKや出版社をたたくべき。

現実に木村氏のりんごは大人気なんだから、他の農家も木村氏の方法を採用すればいい。
木村氏にできて他の農家にできないのは、かがくてきでないよね。

HSEHSE 2013/06/10 11:06 面白かったです。反TPPみたいな連中が飛びついているからね。こういう批判は貴重。ただ肝心の無農薬無肥料に対する批判が弱いかな。

↑ 2013/06/10 11:51 >肝心の無農薬無肥料に対する批判が弱いかな。

「この「奇跡のリンゴ」に対する農学的な批判は後日行うとして、」って書いてるじゃないですか。

高晋高晋 2013/06/10 12:51 みんなカッカしないで、素直に受け入れてようよ。
・酢、ワサビ製剤
・大豆を植えて窒素固定
・刈り取った雑草を土壌に鋤き込んだり
面白いじゃないですか。
大地を崩壊させている中国の傍らで、こんな方向に努力する人が居る日本こそ面白い。
謳い文句が厳密さを欠いているとしてもね。

kagakaga 2013/06/10 13:14 本読まずに批判している.

YUYU 2013/06/10 13:29 うーん。奇跡のリンゴについてはいいも悪いも主観はないけど、あなたの言っている科学と経済性に基づく合理的な判断というのはかなり主観のバイアスがかかっていますね。読み手としては疲れます。

リーザリーザ 2013/06/10 13:59 まず農薬とは必ずしも人体(or環境)にとって害になるのか否かが知りたい。
お酢やわさびは天然のものなので、無害農薬という解釈がいいのか!?どっちだろうか?

すでにあべしすでにあべし 2013/06/10 14:12 ココの筆者はエンタメつぶしじゃないかと。
如何に人を喜ばせるか、皆悩んでいるのであって、
さらに、自己暗示から異次元の体験へ行けるのであって、
なんか、進化を止めた昭和の匂いがする。
神の世の暴露本が出ている位で、誰でも神憑りに成れるんですよ。
精神世界は甘くないので自己責任では有りますが。

565565 2013/06/10 16:18 可食性薬剤使用、化学合成肥料不使用という表示なら許されると思うよ。
まともな思考力のある人なら完全無農薬、完全無肥料だったら野生のリンゴと同じになるので、売り物になる物は生産できない事に気付く筈でしょう。
農薬や化学や人工と聞けば何でも害があり、自然と聞くと何でも体に良いと考えてしまう思考力の欠如した人達が世間には実に多く存在するんだよ。
騙す人が悪いのは当然で徹底的に攻撃するのは必要ですが、それと同時に自分の頭で考える事を放棄した人達にも情報を供給する事も大事だね。

こんにちはこんにちは 2013/06/10 16:53 さて、自然トリカブト濃縮エキスを飲んで天然トラフグ卵巣でも食べようかな?

本しか読んでませんが本しか読んでませんが 2013/06/10 17:44 十年もリンゴがうまくできなくて自殺寸前までいったと書いてありますね。そのほかいろいろな苦労もかかれており、「安易」に「甘い夢を安売り」しているようには思えませんでしたが。

どんだけどんだけ 2013/06/10 19:06 面白いくらい、屁理屈の塊ですね(笑)
ドキュメンタリーじゃないのだから、多少の脚色はあって当然だし、分類として酢やワサビが農薬の部類に入るとしてもテーマとしては合成肥料が問題としているわけで。
それに映画の中でも、食べられるもので害虫予防出来ないかということをテストしてるし、ものすごく良心的だと思う。
農業経験がある人間からすると、ちゃんと報われる努力をした結果だと思います。

しかし、あまりにもみっともない記事だな。。。。

すでにあべしすでにあべし 2013/06/10 20:11 ファンタジーについてですが、
今、ポイントエクスチェンジというサイトでスクラッチをしたら、
5等、6等、5等
でしたよ。
こういう小さい事を集めて、環境に同期していく訳です。
何かのご縁という事で、書いておきます。

なむしなむし 2013/06/10 20:13 リンク先などもひと通り読ませてもらいました。
件のリンゴについては映画も見てないし、食べてもいないのですが、
みなさん何を問題視しているのか、それぞれ微妙に違っているようで、
それが妙な不協和音を奏でているようです。
結局「奇跡のリンゴ」は何が問題なのでしょうか?
感動の押し売り?誇大広告?農薬取締法違反?
感動の押し売りは近年始まったものではありません。
江戸時代の瓦版で心中事件が流行ったことのように古くからあるもので、
今になってことさら問題視するのには疑問があります。
誇大広告に関しても商品のブランディングなんてそれこそどこの企業もやっていることで、
この程度で問題になるとは思いません。
もし本当に農薬取締法?(どんな法律家浅学なので知りませんが)
に違反されているのでしたら、健康に被害がでる可能性もありますし、
即刻通報して場合によっては流通も止めるべきでしょう。
現状なんの対策もされていないことを鑑みるに、当局も問題視していないのではないですか?
こういった現状に一石を投じるに違いない、
農学的な批判についての記事を楽しみにしています。

pkmnpkmn 2013/06/10 21:49 揚げ足取りだけど
「感動の押し売り歓迎」
「誇大広告どうぞどうぞ」
「騒いでなければ問題ない」
を盲目的に受け入れてるとしたらそれはそれで十分問題
最もそうでないからこそ問題提起されてるのでしょうけれども
内容が全くなくてすまない

ろどろど 2013/06/10 22:33 本質からずれた批判をされていますね。それから「農薬」という用語の使い方を間違えておられます。「無肥料」という用語についてもそうです。まさにはじめに批判ありきというブログで幻滅しました。

通りすがり通りすがり 2013/06/10 23:34 いわゆる我々がイメージする農薬や化学肥料を使ってるのに、
使ってないと嘘ついてるのかと思っちゃった。
無農薬/無肥料と言っても許されるレベルちゃうの?

ミナミナ 2013/06/11 01:54 一般的なりんご農家で利用さえる農薬とは有機リン系の猛毒で、人工物です。
この有機系の農薬を人体に害の及ばないと国で定められている基準まで薄めて
霧状の散布器具で霧状にしてさんぷするのです。

りんごは、元来害虫や病気に弱くほかの農作物と違い農薬散布回数を減らしてでも、
必ず農薬を利用しないと全滅してしまう可能性が高い植物です。
しかし、有機系の農薬は危険なものですから、
私が入学した農業高校の実習では、農薬散布の際はりんご園への
立ち入りが禁止されるほど厳しい管理がされていまいた。

その経験がら言えば酢とわさび製剤を利用して、
りんご収穫を出来るりんごの木を育成できたのは、
「農業」とくに農薬と戦わなければならないりんご農家にとっては
革命的大成果なんですよ。

現実を知らずに机上の論理をかざして人や放送局をたたくなんてのは
自分の論理をひけらかしたい、ただの愚か者の論理です。

不信感不信感 2013/06/11 03:02 この文章読んでると筆者自身が調査したものがない。全て伝聞。現地行って調査してから言えよ。

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