Qui Tam(キイタム)訴訟とマネーゲーム
仮に一連の臨床研究で意図的な不正行為があり、その結果を利用して販売プロモーション活動が行われていたとすれば、どのような対応が取られるべきだろうか。
もしバルサルタン事件で臨床研究の不正行為があったとすれば、臨床現場や世界の医学界、さらには一般の患者や日本国民に対する重大な背信行為だと言わざるを得ないだろう。米国では製薬企業による不正行為に対する訴訟が常態化しており、適応外での販売や医師へのリベートなど不適切なマーケティング行為への罰則として、巨額の賠償金が政府に支払われる事例が多発している。
医療業界は専門性が高いため、不正行為が露見するのは内部告発による場合が多い。この不正に関する公益通報を促進しているのが、キイタム(Qui Tam)訴訟制度だ。キイタムはラテン語の “qui tam pro domino rege quam pro se ipso in hac parte sequitur (統治者のために、また自分自身のためにも、この事件について訴える者)”というフレーズに由来する。
キイタム訴訟制度では、政府と契約している企業等の不正が見つかった場合、その告発者自身が民事訴訟を起こすことが可能で、さらに勝訴した場合、和解・賠償額の最大30%まで米国司法省から報償として受け取ることができるという、いかにも米国らしいダイナミックな仕組みが取られている。
この仕組みは金銭的インセンティブを強力に裏づけていると想像されるが、2001年から2012年9月まで米国政府は23件もの不正事件に対して和解金を受け取っている(26、27)。驚異的なのは製薬企業の支払額で、1000万ドルから30億ドル(中央値で4億3000万ドル)と報告されている。
史上最高額の30億ドルは、2012年7月のグラクソスミスクライン(GlaxoSmithKline=GSK)による支払いだ。また、訴訟の対象となった製薬企業は、GSKのみならずメガファーマの有名どころがずらりと並んでいる。
医薬品業界では少々際どい売り方をしたとしても、売り抜けてしまえば巨額の利潤を得ることができるため、この程度の和解・賠償額の支払いはリスクとして既に織り込み済みなのかもしれない。
つくづく医薬品業界は製薬企業のマネーゲームの場と化していると思う。
翻ってバルサルタン事件では年間1000億円以上の売り上げに対し、ノバルティスの対応は関係役員の月額報酬2カ月10%の減額にとどまっている。果たしてこれで釣り合いが取れるものなのか、今後の展開からまだまだ目が離せない。
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