日本版ORI(研究公正局)の創設はあり得るか
ここで筆者が思い出すのが、20世紀末に南アフリカの研究者ベズオダ(Bezwoda)氏によって行われた、乳がんに対する大量化学療法に関する臨床研究不正事件だ。
不自然なほど素晴らしい臨床研究結果に疑義が持たれ、米国の研究者らが現地に直接乗り込んでカルテを隅から隅までひっくり返し、徹底的な真相究明がなされた。
その結果、多数の不正が白日の元にさらされ、さらにその検証結果の詳細がランセット誌とJCO誌で医学論文として発表された。
今回のバルサルタン事件でも、撤回された「Kyoto Heart Study」の検証結果も含め、本当のところ何が起こったのかを徹底的に明らかにし、最終的には全世界に向けて英文での医学論文として発表し、後世に残すところまで遂行することが関係者の役目ではないだろうか。
また、日本の医療界では、うまく運用されているように見える米国の政府系機関を、部分的に真似て日本版を作れば問題が解決するはずだ、という牽強付会な議論がしばしば行われている。
代表的なのは安倍政権が掲げる日本版NIH(国立衛生研究所)構想だが、そのほかにも日本版FDA(食品医薬品局)、日本版CDC(疾病予防管理センター)や日本版ACIP(予防接種諮問委員会)など様々な提案がある。
皮相浅薄かもしれないが、その言説に便乗して提案させてもらいたいのが、日本版ORI(Office of Research Integrity:研究公正局)の創設だ(米国研究公正局)。
米国では研究不正が社会的問題となったため、1980年代からの立法や前身組織を経て1992年にORIが設立され、このお役所が研究不正に関する調査などの業務を担当している。バルサルタン事件では、お手盛りの身内による調査で公正さが保たれていないことが既に指摘されている。
日本ではNPOとして臨床研究適正評価教育機構が2009年に設立されているが、度重なる不正事件を受けこの団体がどういった役割を果たすのかが注目される。
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