明日の医療

起こるべくして起きた高血圧治療薬バルサルタン事件

徒然薬(第3回)~地に堕ちた日本発臨床研究への信頼

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最も必要なのは試験結果の信頼性担保

 さらに疑惑に拍車をかけているのが、ノバルティスの元社員が身分を明かさないまま臨床研究の統計解析に関与していたことだ。明らかに利益相反の問題に抵触する行為で、同社の謝罪とともに社長らの報酬減額などの対応が取られることが2013年6月3日に発表されている(2425)。

 ノバルティスの調査では、「元社員は、研究によってはデータの解析などに関わっていたことが判明し」たが、「データの意図的な操作や改竄を示す事実は」なかったという。しかし、どのような調査が行われたのかは未発表で、スイスのノバルティス本社や各大学の調査結果についても、今後の発表を待たなければならない。

 製薬企業、特に外資系企業は社員の異動が激しいため、今回の事件に関しても当時の担当者にまで調査協力を依頼することも重要だろう。

 なお、医薬品の承認審査の過程において、米国FDA(食品医薬品局)では、製薬企業は治験の生データそのものを規制当局に提出し、FDA自らがその解析を行っているが、日本では性善説に基づいて製薬企業の統計担当者による解析済みの治験データを受け取って、規制当局がその評価を行う仕組みになっている。

 今回、製薬企業の統計担当者によるデータ不正疑惑が生じたことは、日本の医薬品の承認審査体制に禍根を残す可能性もある。

 今最も必要とされるのは一連の臨床試験結果が信頼に足るものか、詳細な真実がさらに明らかにされることだ。利益相反という手続き上の問題はさておき、一般の臨床医や患者が本当に知りたいのは、バルサルタンの素晴らしい効果が本物かどうかだ。

 もしバルサルタンが血圧を下げるだけでなく臓器保護効果まで併せ持つことが真実ならば、一連の不祥事にもかかわらず、今後もブロックバスターの地位に値する重要な立ち位置を保ち続けるだろう。

 筆者も臨床現場の末端で働く一医師として、一連の臨床研究の結果が間違いないものだったのか、公正な検証結果が一日も早く詳らかにされるのを待ち望んでいる。

 また、カルテ記録が残っていないなどの理由で迷宮入りすることも危惧されているが、ノバルティスや高血圧学会などでバルサルタンの大規模臨床試験を再度実施し、結果の再現性が得られるのか再検証まで行えば、日本の臨床研究の信頼性回復のためにはむしろ早道かもしれない。

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