さらに国別のランキングでは、捏造またはその疑いに関しては米国、ドイツに続き、日本は第3位とされた。上述の昭和大学の論文は、最も引用された撤回論文ランキングの世界第4位(臨床医学分野では第1位)で、日本は臨床研究の捏造大国として立派に一角を占めていると海外から評されても不思議ではない状況となっている。
バルサルタン事件
さて、2013年6月現在、既に毎日新聞やフライデーをはじめ様々な国内メディアで取り上げられ、海外メディアのフォーブスまで報じ、さらに厚生労働大臣まで巻き込んで話題となっているためご存知の方が多いだろうが、高血圧治療薬のバルサルタン事件を振り返ってみる(13、14、15、16、17、18)。
この問題に関しては大手メディアのみならず、ツイッター、ブログなどを駆使した個人ボランティアにより、詳細な追及が積極的に行われていることは、2005年の耐震偽装事件を彷彿させる(19、20、21、22、23)。
バルサルタンは1996年にドイツ、米国で承認された高血圧治療薬の1つで、日本では海外に遅れて2000年に承認され、ノバルティスファーマ株式会社(以下、ノバルティス)が販売している。
実は承認当時の国内臨床試験(治験)もかなり杜撰なもので、当時の医薬品医療機器審査センターによる審査報告書を見ると、「臨床試験の質に問題があった可能性がある」ことが指摘されている。
余談だが、高度な厳密さが要求され、医薬品の承認取得など薬事法上の規制に沿って行われる臨床試験(治験)ですらも、日本では杜撰な国内臨床試験成績が提出されることは決して珍しくない。
海外に比べ新薬販売が大幅に遅れるドラッグラグ問題が薬事行政のくびきになっているため、治験の質に問題があったとしても規制当局から文句を言われる程度で許され、最終的には承認取得が認められてしまう場合が多々ある。
このことは、製薬企業や臨床試験を実施する医療関係者にとって、「いいかげんなデータを出しても日本では見逃してもらえる」というメッセージになっている可能性がある。
いったん販売権利を取得してしまえば、今度はいかに日本の臨床現場に売り込むかという熾烈な販売合戦が始まる。循環器関連の薬剤は2011年で1兆3630億円という巨大市場で、なかでも高血圧治療薬はその60%を占める主力商品だ。
承認時には新たなメカニズムを持つとされたバルサルタンをもってしても、既に様々な種類の薬剤が多数乱立する高血圧治療薬の領域は激戦区だ。類似の薬剤を持つ多くの競合他社と差別化を図るために、苛烈なマーケティング合戦がなされたであろうことは想像に難くない。
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