ノバルティス論文疑惑、バカを見るのは患者?

臨床試験に社員が身分を隠して関与。データ捏造の可能性も

不自然な試験結果

疑惑の火付け役となったのが、2012年4月に英『ランセット』誌に掲載された由井芳樹・京都大学医学部附属病院医師による論文だった。この論文で由井氏はランセット誌に07年4月に掲載された東京慈恵会医科大学を中心とした「ジケイハート試験」およびキョウトハート試験の結果について「ストレンジ」(奇妙)と指摘。バルサルタンを用いた患者の血圧の平均値および標準偏差と比較対照群のそれが試験終了時にぴたりと一致していることについて疑問視した。

その後、疑惑はさらに深まっていった。12年10月には日本循環器学会の複数の学会員から、キョウトハート試験に関する論文データに疑義があるとの指摘が、学会誌の編集長に伝えられた。事態を重く見た循環器学会が試験論文の責任著者およびノバルティスの執行役員にヒアリングを実施したところ、責任著者から編集長宛てに二つの論文の取り下げをしたいとの申し出があり、12月27日付で論文は撤回された。さらに今年2月1日には、キョウトハート試験のメイン論文について、欧州の専門誌が掲載を取りやめた。

3000人以上の患者を対象とした大規模試験に関する論文が撤回されるのは極めて異例だ。

4月11日には、キョウトハート試験の統括責任者だった松原弘明・京都府立医科大学元教授(2月28日に退職)の発表論文14本52カ所でデータの捏造や改ざんがあったことが大学の調査で判明。キョウトハート試験は調査対象に含まれていなかったものの、同試験の信頼性は大きく揺らいでいる。

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