「問題点は二つある。一つは、どの試験でもノバ社の社員『S』氏(5月退職)が肩書を隠し、非常勤講師を務める『大阪市立大学』の所属として統計解析をしていたこと。もう一つは、データが作られた可能性があることです。『脳卒中のリスクを下げる』など、どの論文でも降圧以外の効果が謳われていますが、それを示すデータが、『科学的にあり得ない』。ノバか学者、もしくは双方が故意にデータを作った可能性があります」(都内大学病院・循環器内科勤務医)
慈恵医大を皮切りに各大学が論文を発表したのが '07 年以降。松原氏や千葉大での治験を行った現・東大医学部循環器内科教授の小室一成氏などが医療専門誌に登場し、薬効をPRした。
「もしノバが故意にデータを作っていたとしたら、紛れもない犯罪です」
東京大学医科学研究所・上昌広特任教授の語気が荒いのは、年間1000億円を売り上げた「疑惑の降圧剤」によって、私たち国民の財産が不正に奪われた可能性があるからだ。
「薬の代金は、一般的に大部分が国民が納めている保険診療費で賄われています。例えば、ある高血圧患者が『バルサルタン』を処方されておカネを払う場合、3割が窓口での自己負担で、それ以外の7割は国民の保険料から支払われます。税金や自己負担金も含まれますが、大部分は私たちの保険料です。仮に、ノバが捏造したデータを使って学者に論文を書かせ、それを学者たちが喧伝して医師がより多くバルサルタンを処方したとすれば、不正に請求された診療報酬は、ノバから国民に返されるべきです」
膨らみ続ける日本の医療費は年間総額37兆円に上る。その負担が現役世代に容赦なく襲いかかり、体力を削いでいることは、ここで書かなくても誰にも痛感されていることだ。繰り返すが、バルサルタンは年間1000億円以上を売りあげる『ブロックバスター(爆発的なヒット薬)』だった。その薬の売り上げの大部分は、私たちの保険診療費から賄われているのである。仮に「全部ウソでした」となった時、誰が責任を取れるのか。
本誌は5月25日、東京のJPタワーで開かれた『臨床高血圧フォーラム』で、二人の人物に直撃取材を行った。
一人は千葉大学在籍当時、バルサルタン治験の責任者を務め、『日経メディカル』誌上で複数回にわたり、バルサルタンの薬効について語った東大の小室氏だ。ネット上では、小室氏の論文に登場する画像の捏造が数々指摘されている。
千葉大での論文捏造疑惑について尋ねると、「それは、そのうち答えます」とだけ答え、控え室に消えていった。
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