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外貨準備高・為替レート・国際収支の関係を知りたい

小澤 徹

2012年10月07日 04:25

次の図は、(政府の金保有高を除く)外貨準備高(International Reserves / Foreign Currency Liquidity)の世界ランクです。
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中国は、国内総生産で日本を抜いて世界第2位になりましたが、外貨準備高でも日本を抜いてダントツの世界第1位になっています。そして、興味深いことに、中国・日本・ロシア・台湾・韓国・香港と日本の隣国(というよりは中国の隣「国」)が上位を占めています。これらの国々の多くは、1997年のアジア通貨危機やロシア通貨危機の苦い経験から、外貨準備を手厚くして流動性リスクを小さくしておこうとしていて、それを近年の経済の好調が可能にしていると思われます。ちなみにアメリカは世界最大の輸入国であるにもかかわらず外貨準備高が少ないですね。勿論、輸入決済のほとんどが自国通貨であることがその理由ですが、政府の金保有高はアメリカがダントツの世界第1位であることがとても重要です(1972年まではアメリカドルは金兌換制だったのです)。

外貨準備高の「必要量」については、輸入の3か月分以上または短期債務残高以上と言われています。中国(3兆2千億ドル 253兆円)と日本(1兆2千億ドル 99兆円)の外貨準備高はあまりも過大であるように思われます。外貨準備高の大きい国は、経常収支黒字が続いているために、自国通貨の切り上げ(元高・円高)圧力が高い国です。為替の急激な変化を和らげるために、政府が自国通貨売り・外貨買い介入を行います。それを日本円について確かめてみます。

次のグラフは、日本の月次の外貨準備高直物円ドルレート(月平均)の推移です。
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まず、外貨準備のほとんどは(満期保有を目的としない短期保有目的=時価評価が行われる=の)外国債券(Securities)資産で保有されています。近年は外貨建て預金(Deposits)資産はきわめて少なくなり、他方で(世界の金融危機を回避するための財源拠出として)IMFや世界銀行に対する債権を持つようになっています。また、上の表には含まれていなかった政府保有の金がだんだん増えているように見えますが、実際は保有量は変わらず、ドル時価が値上がりしているためです。日本政府の金保有量はそれほど多くはありません。

さて、時系列の変化をみると、確かに円高が進む局面で外貨準備高が増加してきましたが、円高の進行度合い外貨準備高の増加度合いは完全には連動していないようにみえます。政府の為替介入はもっぱら「アナウンス効果」によって投機的な変動を緩和しようとしているものであって、外貨準備高の増加はもっと別の要因に支配されているようです。それは、円とドル(外貨)の売買高を均衡させる(バランスさせる)ことです。そのことを国際収支の推移によって確認してみます。

次のグラフは、日本の国際収支(Balance of payments)の均衡状況の推移です。
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経常収支(Current Account)は、貿易収支(Trade Balance)・サービス収支(Services)・所得収支(Income)・経常移転収支(Current Transfers)の合計です。日本はもう30年以上経常収支黒字を続けています。2011年に貿易収支赤字(輸出<輸入)になりましたが、サービス収支赤字(料金受取<料金支払)が縮小してきていることや所得収支黒字(所得受取>所得支払)がかなり大きくなってきているので、なお大きな経常収支黒字を保っています。

経常収支に対する経常外収支は、投融資収支(Capital & Financial Account)で、2003・2004・2011年の3年以外は全て赤字(外貨建て日本資産の増加額>円建て外国資産の増加額)になっています。外貨建て日本資産からの利子や配当の受取が円建て外国資産に対する利子や配当の支払よりも多い分だけ所得収支が黒字になります。そして投融資収支赤字の累積額(ネット対外投融資資産残高)が大きくなるほど、所得収支黒字が大きくなります。

経常収支黒字から投融資収支赤字を引いても収支がバランスしない部分を外貨準備高の増減によってバランスさせます(誤差脱漏による多少の不均衡はあります)。理論上は、国際収支が瞬時に完全均衡していれば為替レートは変わらないはずですが、現実にはそうはなっていません。実際には、円高は円に対する投機すなわち円建て外国資産の瞬発的な増加によって生じますが、その円高が定着するのは外国と日本の物価上昇率の違いによって生じます。すなわち、基軸通貨国であるアメリカの物価は上昇(したがってドルの価値は下落)を続けていますが、日本の物価は長い間下落(デフレ)(したがって円の価値は上昇)を続けています。ですから円高期待は日本のデフレ継続期待と考えることができます。

さて、外貨準備高の増加所得収支黒字の拡大に寄与しますが、投融資収支赤字の累積も所得収支黒字の拡大に寄与します。次のグラフは、投融資収支赤字の累積(ネット外貨資産残高の増加)の内訳を示しています。
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外貨準備増の累計(113兆円)は外貨準備高(金を除いて99兆円)とほぼ等しくなっており、またネット対外短期債務ネット外人保有株式(取得価格)の累積(110兆円)にほぼ等しくなっています。株式は2008年以降外人の売り越し気味なのは日本株の成長性に魅力を感じないからでしょう。他方でネット対外短期債務が増加を続けているのは、通貨「円」に値上がりの期待(すなわち物価下落=デフレ期待)があるからでしょう。

総括すると、ネット対外直接投資(Direct investment)やネット外貨建て中長期債投資(Bonds and notes)の累計(290兆円)は着実な増加を続け、経常収支黒字の累積(302兆円)にほぼ等しくなっています。経常収支で稼いだ外貨とほぼ同じくらいは海外投資をしているのですが、外国から国内へのネット短期投資(および株式外人買い越し)の分だけ国が外貨準備残高を増加させてバランスさせる必要が生じているというように見えます。

国際収支における外貨準備の位置づけは分かりましたが、円高の原因となってきたデフレはどうして起きるのか、どうすれば穏やかなインフレに転換できるのか、そこがまさにホットな議論の焦点になっています。いろいろな意見がありますが、みんなが理解できかつ確実に実現できる処方箋はみつかっていないように思われます。

なお以上の時系列データは、いずれも財務省のホームページから簡単に入手することができます。

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中堅食品企業・金融系総合研究所・政府関係機関勤務などを歴任

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