今年58歳を迎え、少しずつ料理のことがわかるようになってきました。以前、帝国ホテルの村上信夫料理長が80歳になられた頃、僕にこうおっしゃいました。
「三國君、この歳になって、ようやく料理のことが少しわかるようになってきたよ」。僕はハッとしました。料理には入門があって、卒業がないのだ、と。
さて、今年10月から東京・竹橋にある東京国立近代美術館内において、料理を担当させていただくことになりました。村上料理長の命によりスイス・ジュネーブの日本大使館に料理長として派遣された20歳の時、「ヨーロッパの美術館をまわり、自分の美意識を高めなさい」と言われたことを、昨日のことのように思い出します。ただその時は、その意味があまり理解できませんでした。今58歳になり、これから60代、70代と経験を積み重ねていくわけですが、料理人にとって、料理をどれだけ芸術に近づけるか、それが最終の課題であったことを、料理人を続けて40年にして、ようやく気がつきました。
竹橋では「アートと料理」をテーマに新たな挑戦をいたします。ぜひ期待してください。僕自身もどのような表現になるか見当もつきませんが、ただ「温故知新」だけはぶれないはずです。このような新たなチャレンジの機会をくださった皆様には感謝の念に堪えません。今後とも、これまで以上のご支援、ご批判を賜れれば幸いです。
オテル・ドゥ・ミクニ
三國 清三