2013年5月8日(水)

ドイツで再び台頭するネオナチ

外国人の排斥を主張する極右組織、ネオナチ。
そのメンバーによる連続殺人事件の裁判が、今週ドイツで始まりました。
ドイツの主要メディアも、連日この事件を報道。



テレビ番組 記者
「今日、大きな出来事がありました。
ネオナチ組織の裁判が始まったのです。」

トルコ人など10人が殺害されたこの事件。
動機は外国人への憎悪と言われ、ドイツ社会に衝撃を与えています。
ドイツ社会に、今なお勢力を保つネオナチ。
その背景にあるのは、ドイツ社会に根付く経済格差です。

市民
「多くのドイツ人が仕事もなく、路上で生活している。
外国人が何もかも手に入れているのは許せない。」

巧妙に社会に浸透するネオナチ。
その現実に、ドイツはどう向き合っているのでしょうか。

鎌倉
「ナチス・ドイツが行ったユダヤ人大量虐殺を否定し、外国人の排斥や民族主義を主張しているネオナチ。
現在ドイツでは、民主主義の存在を脅かす団体の活動は法律で禁止されていますが、ネオナチのメンバーは地下に潜り、水面下で活動を続けてきました。」

黒木
「そのネオナチの存在が、ドイツで再び注目されています。
きっかけとなったのは、ネオナチのメンバーによる連続殺人事件でした。
2000年から2007年にかけて、トルコ人やギリシャ人など合わせて10人を殺害したほか、トルコ人20人余りがけがをする爆弾テロを起こしています。」

ドイツ社会に衝撃 ネオナチによる連続殺人事件

鎌倉
「まず、現地で取材にあたっている木村記者に聞きます。
木村さん、今回の裁判が大きな注目を集めている理由、何があるんでしょうか?」

木村記者
「事件は、ネオナチの危険性を過小評価していたため、ネオナチや極右組織がひそかに根を広げていたという反省を、ドイツ社会に突きつけるものとなったからです。
2000年から7年間にわたって犯行が行われたことからしても、グループがそれなりの組織力をもち、支援者がいたことをうかがわせています。
しかも、ネオナチによる犯行と発覚するまで10年以上もかかったことで、今回の事件を巡っては、捜査当局とネオナチが癒着していたのではないか、という疑惑も呼びました。
警察などの捜査機関は、一連の事件を、トルコ人同士の内部抗争との偏った見立てで捜査し、被害者の遺族を含む多くの外国人が執ような取り調べを受けました。
さらに、事件関連の捜査資料が破棄されていたことが明らかになり、情報機関の長官が辞任するスキャンダルも起きています。
ドイツでのネオナチを巡る議論と、ネオナチや極右組織が社会に根を広げつつある現状を取材しました。」

ドイツ社会に広がるネオナチ

デモ参加者
「犯罪者の外国人は出ていけ!」

今年(2013年)3月、ドイツ北部で行われたデモ。
参加したのは、黒い衣装に身を包んだ若者およそ300人。
鈎十字(かぎじゅうじ)などは掲げていませんが、多くはネオナチのメンバーです。
ドイツへの亡命を希望する外国人のために集合住宅を建設する計画に、強硬に反対しています。

デモ参加者
「ドイツ人家庭は一銭ももらえないのに、70万ユーロ(約9,100万円)もの税金が、亡命を希望する外国人に使われるなんて。」



ドイツでネオナチの勢力が根強いのは、旧東ドイツです。
東西の統一から20年以上がたった今も埋まらない経済格差が、背景にあります。
旧東ドイツ地域に住む市民1人当たりのGDPは、旧西ドイツに比べて70%余りにとどまっています。
ドイツ憲法擁護庁によると、2002年には2,600人だったネオナチのメンバーは、2011年には6,000人に急増しています。
元ネオナチだった男性を取材することができました。
旧東ドイツ出身の、マヌエル・バウアーさんです。

13年間にわたり、ネオナチのメンバーでした。
バウアーさんがグループに入ったのは、東西ドイツの統一から3年がたった、14歳のときでした。
統一に伴って、旧東ドイツでは企業の倒産が相次ぎ、バウアーさんの両親も失業しました。
社会への不満を募らせ、次第にネオナチの活動に没頭するようになっていったと言います。

マヌエル・バウアーさん
「当時、私は“ピストル”と呼ばれていました。
(外国人に)すぐに襲いかかる、凶暴な人間だったからです。
議論だけでは、世の中を変えられないと思っていました。」

勢い増す 極右政党

今、旧東ドイツでは州議会でも、ネオナチとのつながりが指摘される政党が勢いを増しています。
外国人の排斥を訴える、極右政党のドイツ国家民主党です。
現在、2つの州議会で議席を確保しています。
この日も、移民の受け入れを制限するよう、議会に提案しました。

議員
「連邦刑事局の統計で最も多いのが、外国人の犯罪です。
殺人、強盗、詐欺、盗み、犠牲者の多くがドイツ人です。」

人々が抱える社会への不満の受け皿となり、15%を超える支持を得る地域も出ています。

ドイツ国家民主党 ケスター州議会議員
「我々は国内に非常に多くの問題を抱えているのに放置され、その代わりに、途方もない金が外国人のために投じられるなんておかしいです。」

右傾化を危惧 市民の取り組み

こうした中、ドイツ社会の右傾化を危惧する声が高まっています。
この日、市民グループが開いたイベントでは、ターゲットになりやすい若者たちを、どのようにネオナチの勧誘から守るのか話し合いました。

女性
「(極右に取り込まれて)手遅れになる前に、若者と話しあうことが大事だわ。」

男性
「若者が孤独感から極右と接触してしまうなら、彼らにもっと違う方法で孤独を癒やせると伝えたい。」

ネオナチのメンバーだったバウアーさんも、こうした団体の支援で、ネオナチと縁を切ることができました。

マヌエル・バウアーさん
「“こんなに周りから嫌われるなんて、自分は何をやっているのだろう”と。
自分の愚かさにようやく気がついたのです。」

今、バウアーさんは各地で自らの体験を語っています。
ネオナチの危険性を、人々に訴えるためです。

マヌエル・バウアーさん
「組織を辞めようとしたら、仲間から脅されました。
“殺す”とまで言われました。」

忍び寄るネオナチの脅威から、いかに人々を守れるか。
バウアーさんの闘いは続きます。

マヌエル・バウアーさん
「ネオナチはいま、スタイルを変えています。
失業や賃金の低さ、社会保障に対する怒りといった人々の不満につけ込み、社会に浸透しようとしています。
“もっと気をつけておくべきだった”と、将来後悔しないよう、いま対策をとるべきです。」

ネオナチ 支持が広がる背景は

黒木
「再び、ベルリン支局の木村記者に聞きます。
ネオナチや極右組織の活動は、なぜ支持を広げているんでしょうか?」

木村記者
「まず、支持拡大のため、より現実的な路線をとるようになったことが挙げられます。
以前はネオナチと言いますと、いわゆるスキンヘッドの暴力的な若者の集団で、社会から孤立していました。
しかし、旧東ドイツ地域で増加する極右組織のメンバーは、結婚して家庭を持ち、学校の保護者会の代表になるなど、ソフトな一面もアピールしています。
地域の活動に積極的に参加し、草の根の愛国主義に訴えることで、社会に浸透を図っています。
また、ドイツ社会の中で、ヒトラーをタブー視する風潮が薄れてきていることも、関連していると見られます。

この本、最近、ドイツでベストセラーになっている小説ですが、現代社会によみがえったヒトラーが、ヒトラーのそっくりさんとして人気のコメディアンになり、やがて厳格な規律や祖国への絶対的な忠誠心などを訴える彼の姿に、人々が次第に惹きつけられていくという内容です。
この本の中でヒトラーは、魅力的な人物としても描かれており、以前のように絶対悪としては描かれていません。
作者としては、ファシズムがこわもてではなく、ソフトな形で人々の心に忍び寄る危険性を訴えているということですが、ヒトラーの言葉を借りた現代社会に対する鋭い批判に、共感してしまう人も多いと言います。」

ネオナチへの今後の対応は

鎌倉
「そういった社会の風潮がある中で、ドイツの当局としては今後、ネオナチにどのように対処していくんでしょうか?」

木村記者
「アメリカの同時多発テロ以降、ドイツではイスラム過激派のテロ対策に重点を置くあまり、ネオナチの対策が後回しにされたと言われます。
このため裁判になった事件の発覚後、捜査は強化されていますが、ネオナチによる外国人を狙った犯罪はここ数年、増加傾向にあります。
さらに、ネオナチとのつながりが指摘されている極右政党・ドイツ国家民主党の活動を禁止するかどうかを巡っても、政治の足並みがそろいません。
ドイツでは、法律で、民主主義を破壊するおそれのある団体の活動は禁止されており、州の代表で組織する連邦参議院は、ドイツ国家民主党の活動を禁止するよう、裁判にかける方針です。
しかしドイツ政府は、『訴えが認められなければ、逆に極右政党の立場を強めることになる』などとして、提訴には慎重です。
一向に解消されない東西の経済格差や移民の増加など、ドイツ社会には今、右翼的な思想が受け入れられやすい土壌が広がっています。
台頭するネオナチに対して、どう対応するのか、ドイツの市民は自らに問い始めています。」

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