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新型ロケット打ち上げに沸く聖地

6月7日 16時40分

春野一彦記者

ことし8月、日本が12年ぶりに開発した新型ロケット「イプシロン」が、いわばロケットの聖地とも呼ぶべき鹿児島県の発射場から打ち上げられます。
このロケット、最大の特徴は、新技術を導入して打ち上げコストを大幅に削減することです。
打ち上げまで2か月余り。
期待が高まる新型ロケットについて科学文化部の春野一彦記者が解説します。

イプシロンの特徴

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イプシロンは宇宙航空研究開発機構が開発した小型の固体燃料ロケットです。
最大の特徴は従来の日本のロケットに比べてコストがかからないこと。
1基当たりの打ち上げ費用は、今の主力ロケット「H2A」のおよそ3分の1、38億円に抑えられます。
高さは24メートル。
H2Aの半分ほどの大きさで、打ち上げ能力も10分の1程度ですが、低コストを武器に軽くて小さな人工衛星を宇宙へ運ぶ計画です。

既存の技術フル活用

イプシロンの低コストの理由の一つは、既存のロケットの技術を上手に活用した点にあります。
例えば、イプシロンの1段目には、H2Aの補助ロケットをそのまま使用。
イプシロンの元となった「M5ロケット」の技術も組み合わせることで、開発費と製造コストを大幅に削減しました。

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作業も合理化

さらに、低コストのもう一つの理由が、打ち上げ前の点検作業の合理化です。
ロケットの打ち上げでは、通常、膨大なデータをチェックします。
機体の圧力や温度、搭載した装置に異常がないかどうかなど、これまでは人の目で一つ一つ確認していたため、組み立てから打ち上げまで40日余りがかかっていました。

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しかし、イプシロンでは、その期間を大幅に短縮する画期的な装置を導入。
ロケットに搭載される新開発のコンピューターが、いわば“人工知能”として、1秒間に1万8000項目もの点検作業を行います。

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さらにロケットに異常がないかどうかの確認も、たった2台のパソコンで行います。

準備作業は1週間に

こうした新技術を導入した結果、これまで40日余りかかっていた組み立てから打ち上げまでの準備作業は僅か1週間に短縮される計画です。
合理化を進めることでコストを抑え、衛星打ち上げビジネスへの参入を目指します。

打ち上げは“聖地”から

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そのイプシロンが打ち上げられるのは、鹿児島県の大隅半島にある内之浦宇宙空間観測所です。
日本初の人工衛星「おおすみ」や小惑星探査機「はやぶさ」など、歴史に残る数々の衛星を打ち上げてきたことから、日本の宇宙開発の“聖地”とも呼ばれています。
しかし、イプシロンの前身のM5ロケットが、打ち上げコストが高いことを理由に廃止されたため、今回のイプシロンは実に、7年ぶりの打ち上げです。

イプシロン弁当も

内之浦に7年ぶりに戻ってきたロケット。
地元の人たちは打ち上げを心待ちにしています。
地元の婦人会がかつて、打ち上げの度に成功を願って作ってきた千羽鶴も復活。
打ち上げを半世紀前から応援してきたことし80歳の女性のもとに古い仲間が鶴を持ち寄り、最近、イプシロンのための千羽鶴を完成させました。

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また、地元の観光協会は、特製の「イプシロン弁当」の販売を企画中で、どうすれば打ち上げを見に来る観光客に喜んでもらえるか、知恵を出し合っています。
一方で、地元の町役場は、大勢訪れると予想される観光客への対応を懸念していて、発射場へ向かう道路の交通渋滞を防ぐため、マイカー規制やシャトルバスの運行など、今後、具体的な対策を決める計画です。

思わぬトラブルも

“聖地”内之浦で打ち上げに向けた準備が進むイプシロン。
初めての打ち上げだけに、思わぬトラブルも発生しています。
今月1日、内之浦漁港に船で運び込まれたイプシロンの1段目の機体。

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専用のトレーラーに乗せられ、内之浦宇宙空間観測所に運び込まれる途中でトレーラーが故障。
観測所の手前、300メートルの坂道で立往生し、3日後、ようやく運び込まれました。
JAXAはロケットの機体そのものに異常はなく、打ち上げに支障はないとしています。

衛星搭載し宇宙へ

イプシロンは今後、内之浦で機体の組み立てや点検などの作業を経て、ロケットの先端部に人工衛星を搭載します。
そして、およそ2か月後の8月22日、“聖地”内之浦の発射場を飛び立つことになっています。

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