「残念な」BS
まず、「BS17って何?」というかたは、このページを読む前に「
BS17とはなんなのか」という解説を行っている前回のページをご参照くださるとありがたいです。
地上デジタル放送波が受信できない難視聴地域は必ず出るので、そうした
難視聴地域のために、BSを使って首都圏の地上波放送を、B-CASカードでスクランブルをかけて送信する、というのが、BS17です。
大騒ぎしている地上デジタル放送ですが、すでに大昔に完成しているBS、CSという衛星放送インフラを使えば、瞬時に、日本全国どこにいても高精細なデジタル放送を受信できるわけで、なにもわざわざ「地上波」(VHF、UHF)を使って放送する必要はありません。地上波を使うとしても、一部で使えばいいだけです。
しかし、BSを使って全国一律に無料放送を届けると、地方のテレビ局の存在意義がなくなり、今までの電波利権が喪失してしまいます。そこで、全国を簡単にカバーできる衛星放送という手段を使わせず、わざわざとんでもない金のかかる、デメリットだらけの地上波を使ったデジタル放送を「地域別に」行って、従来の電波利権を死守しようというのが地デジ政策です。
おかげで、BSという貴重な電波資産は、ほぼ1日中通販番組を高精細で放送している局などが平気で乗っ取ってしまい、我が物顔で国民の財産を食いつぶす無法地帯と化してしまいました。
BS12(TwellV)というチャンネルは、一日の大半を通販番組で埋め尽くしていますが、その内容は、BSデジタルが受信できるテレビ(多くの地デジ対応テレビはBSデジタルチューナーも内蔵しています)であれば無料で受信できるQVCチャンネル(スカパー! e2のチャンネル161。アメリカ資本の24時間通販チャンネル。無料放送)との同時放送です。まったく同じ放送内容を、BS12(TwellV)では16:9の高精細画面で、QVCでは標準画質で放送しています。この通販番組を高精細画面で見なければいけない必要がどこにあるのでしょう。(QVC番組の一部は、現在、BS日テレでも高画質放送されています)
その一方で、NHKのBS1とBS2は高精細画像を送出するだけの帯域がないために、標準画質放送であり、BS12(TwellV)よりも粗い画像です。しかも、2012年4月からは高精細画像放送にするためにチャンネルを減らして、従来のBS3局体制(NHK BS1、 BS2、 BS-hi)から2局体制にするというのです。同じNHKの聴取料を払っていても、見られるチャンネルが1つ減るのです。
こんな無駄遣いが許されていいのか?
そもそも、日本全国を
地上波のみでデジタル放送の視聴域にすることは無理です。インターネットの高速回線や、BS、CS、ケーブルテレビを使えば簡単に全国放送できるのに、それをさせず、わざわざ狭い地域にしか届けられない地上波という劣った方法を強行しているのですから、無理があるのはあたりまえです。
そこで総務省は、どうしても地デジを受信できない「難視聴地域」のために、BS17という、今まで使っていなかったBSの帯域を使って、首都圏の地上波放送(NHK2局+民放5局)を同時送信させています。現在、首都圏の地上波7チャンネル分の放送は、BSの電波に乗って日本全国に降り注いでいます。
しかし、ほとんどの国民はこれを受信することができませんし、放送されていることに気づいてもいません。わざわざB-CASカードによるスクランブル(暗号化)をかけて、解除するには複雑な手続き経て、「難視聴地域住民です」と認定されなければならないということになっているからです。
この事業には、昨年度だけで約6億円の金が注ぎ込まれています。
⇒こちらに、「平成21年度『暫定的難視聴対策事業(送信・利用者管理事業)』の交付決定について」という報道発表資料があります。
それによれば、昨年度だけで、このBS17事業に対しての総事業費は5億9660万4000円。そのうち国からの交付金が3億9773万6000円(総事業費の2/3)となっています。残りの1/3は放送事業者などが負担しますが、その金は元をただせば私たち視聴者の受信料や広告費換算される支出(当然、商品やサービスの価格に付け加えられる)ですから、この6億円(昨年度だけで)は私たちが負担しているわけです。
難視聴対策BSを見られる世帯はたったの3世帯(2010年4月時点、北海道全域で)
その結果、この事業でどれだけの世帯が実際に放送を見られるのかというと、スクランブルを解除する申請のための「ホワイトリスト」(あなたはこのBS17を見てもよろしいと難民認定されるための地域のリスト)の発表が遅々として進まず、今年度から実際に放送が開始されているのに、
最初のホワイトリスト発表(2010年1月29日)では、栃木県、東京都、神奈川県の1都2県の55地区。該当世帯数にしてわずか5407世帯にすぎませんでした。
⇒こちら
4月16日発表の第2版でも、まだ15都道府県118地区11085世帯にすぎません。
あの広い北海道でも、2地域、該当世帯3世帯!です。
このホワイトリストに該当するという全国の1万世帯のうち、実際に面倒な手続きを経てBS17を視聴できるよう、B-CASカードによる暗号解除を申請した世帯はどれだけあるでしょう。
申請は各自治体が受け付けるようですが、これもどこまで進んでいるのか分かりません。
考えてみてください。昨年度だけで6億円注ぎ込んで始めたBS17という「難視聴地域向け地上波同時放送」をわざわざ暗号化しなければ、今すぐ、全国で、誰もが、なんの苦労もなくゴーストのないデジタル放送を見られるのです。それをわざわざ暗号化して、「ホワイトリスト」に含まれない世帯は申請さえできないとする愚策、悪法のため、6億円の公費はまったく無駄になっています。
放送業界も総務省も、この事実を知られたくないため、BS17についてはほとんどPRしていませんし、ネット上でもひどく見つけにくい場所に、言い訳のような公告をPDFで出しているだけです。
難視聴地域の住民で、BS17のことを知っている人はごくわずかでしょう。ましてや現在地デジを受信できている多くの人たちには関係のないことですから、知りません。「馬鹿なことをしている」と理解した人も、いちいち腹を立てたり抗議したりするだけエネルギーの損失なので、無視します。(本当は、税金を無駄遣いされ、BSという共有資産をずたずたにされているのですから、大いに関係のある重大問題なのですが)
おかげで、ますますくだらない税金の使われ方が放置されることになるのです。
一部の利権を守るために税金が無駄遣いされることは、この問題に限らず、日本の利権政治がとことんひどい状態になった結果、ありとあらゆる分野で起きていることではありますが。
考えてみてください。
BS17で首都圏版地上波放送をサイマル(同時)放送します。
……こう発表するだけで、問題は解決するのです。技術的にはとっくに解決しているのです。
現時点で、1円も追加せず、地デジを見られない人たちはBSで見るという代替手段が完了しているはずなのです。
それをわざわざ、地域別に細かく「見てはいけない人」を作りだし、暗号化して、それを解除するための申請をさせ、膨大な手間と金を無駄に使う。なんですかこれは。
しかも、この税金は「国民を差別するための税金」であり、無駄遣いどころか、憲法が許していない差別という行為のために使われているのです。