見るなの座敷




概容
ある旅人が、野原で立派な屋敷を見つけ泊めてもらう。若い女がもてなしてくれ、自分はこれから出かけるので 留守番をしてほしい、ここには四つの蔵があるが、最後の蔵は見てはいけないといって、出かける。旅人が蔵を あけると、夏・秋・冬・の景色が見えた。その不思議な光景に心を動かされて、旅人はとうとう約束を破って 見てはいけないと言われていた最後の蔵をあけてしまう。すると、鶯が梅に止まっている。鶯は飛び立ち、同時に 屋敷も蔵も消え、旅人は野原に一人取り残された。


タブー(禁忌)

別名「鶯浄土」「鶯の内裏」とも呼ばれています。鶯の住む異界に人間が入ってしまう異郷譚の形式の昔話です。 主題は見るなと禁じられた部屋を見てしまうタブー(禁忌)侵犯のモチーフにあります。「禁忌」は日常生活において、 秩序と均衡を保つためのルールであり、昔話を通じて「約束を守らないと破局を招く」といった訓戒を示しているのでしょう。

この話のパターンは色々あり、話の発端部分で男が鶯の命を救ってやり、鶯がお礼に招いてくれる報恩譚形式や、 後半部で男が禁忌を守って御礼を貰い、それを見た隣の者が真似をして失敗する隣の爺譚の形式とるものもある。 四つの蔵の部分も、十二の座敷の場合もあります。開けてはいけない扉も十二番目だったり、一月から十二月と暦に みたて二月の扉(梅と鶯の季節)になっている場合もあります。

ヨーロッパでは「青ひげ」という話がこの見るなの座敷に類似しています。

むかし青ひげと呼ばれる嫌われ者のお金持ちがいました。青ひげの妻になった者は、何故かすぐに死亡したり行方不明になってしまいます。 そのうち気味悪がって、誰も妻になってくれなくなったので、無理やりある姉妹の姉を城に連れて行き妻にしてしまいした。 そこで青ひげは妻に鍵束を渡し、どの部屋に入ってもいいけれど、一つの部屋を示し、この部屋だけは見てはいけないと言い渡します。 結局妻は好奇心に負けその扉を開けてしまうのですが、待っていた光景は拷問部屋と死体でした。

青ひげは妻をわざと試したのですが、主題は一見好奇心猫を殺すといったところに感じますが、やはり正義は勝つです(多分)。 ここが「見るなの座敷」とちょっと違う部分です。
実はこの話にはまだ続きがあって、青ひげは姉を殺し次に妹を嫁に貰っては、次々と殺してしまうのですが、禁忌を犯したにもかかわらず 三番目の妹は兄弟によって助け出されます。この場合一方的に悪いのは青ひげなんだから、これでめでたしめでたしですけどね(笑)

ちなみに、青ひげのモデルはジャンヌ・ダルクの忠実な同志だったジル・ド・レ男爵であると言われています。

この「開かずの扉」とか「開かずの間」というモチーフが、国に関係なく存在している事や とても古いモーチフであるということを考えると、やはり人間の根本的な本質というものは大昔から あまり変わらないのかもしれませんね。




参考文献

「別冊『国文学』第41号 昔話・伝説必須」「日本昔話事典」