(c)Toyora Shotaro
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ブルージェイズの川崎宗則が逆転サヨナラ安打を放ち、試合後の絶叫インタビューで一躍全米のカルトヒーローとなった5月26日のオリオールズ戦を、実際にロジャースセンターで観戦した友人からメールが届きました。

それによると、スタメン紹介の際は最も歓声が大きく、グッズ売り場には川崎専用のTシャツコーナーもあったそうです。例のヒーローインタビューは全米で放送され話題となったようですが、試合後のインタビューは日本と異なり完全にテレビ中継用のため、残念ながら球場内にはまったく彼の音声は流れておらず、彼はその場面を近くで見ていながら「何しゃべってるの?」と思いながらこの写真を撮ったそうです。

川崎のある種異常なまでのトロントでの人気の要因は何でしょうか?今まで、主としてその天然な?キャラなどの彼本人に起因する部分に関しては、日本でも多くが語られてきました。

しかし、これには外的要因もあるように思えます。ブルージェイズは、昨季オフにはマーリンズから史上最大級のトレードでマーク・バーリー、ホゼ・レイエスら4人を獲得したのに加え、「幻の首位打者」メルキー・カブレラやサイ・ヤング賞受賞のR.A.ディッキーも手に入れ、多くの専門家が今季のア・リーグ東地区優勝候補の筆頭に挙げていました。ところが故障者の続出もあり、6月1日現在23勝33敗で地区最下位に沈んでいます。期待度が高かっただけに、地元ファンのフラストレーションは相当なものでしょう。要するにファンは何らかのヒーローを求めていたのです。

また、トロントでは2006年から11年途中まで在籍した好守&貧打の「レギュラー半」内野手ジョン・マクドナルド(現パイレーツ)が、「守備の首相」として一部のファンの熱狂的な支持を集めたことがあります。もともとカルトヒーローを持ち上げる素地があったのです。

そして、もうひとつ重要なのは「彼はここに長く居座る選手ではない」ことをファンが認識していることではないでしょうか。もともと川崎の位置付けは、正遊撃手で4月13日から左足首の故障で故障者リストに入っているレイエスが復帰するまでの「繋ぎ」です。現在もレイエスの復帰時期は未定ですが、6月下旬あたりが有力とされています。そうなると、川崎はポジションを失うだけでなく、控え層も人材が豊富なだけにマイナー降格や最悪DFA(Designated For Assignment 戦力外通告)も決してあり得ない話ではありません。「束の間の逢瀬」なだけにファンも盛り上がるのではないでしょうか。

そして、その背景には人気とは裏腹に打率は.220、OPSも.613でしかないという厳しい現実があります。

しかし、必ずしも川崎はレイエス復帰後の自身の命運に悲観的になる必要はないでしょう。ここまでに彼が証明したものは、残念ながらレギュラーの器ではないということ、それと控え選手としては貴重な戦力に成りえるということです。パワーはなく低打率ながら、四球をしっかり選び出塁率は.328とソコソコで、肩は弱いものの守備は及第点です。

仮に降格や戦力外通告にあったとしても、長いシーズン必ずチャンスがあります。それはブルージェイズかも知れませんし、他球団の可能性もあります。「声が掛かればどこへでも」「控えでも何でも」という気概さえ持っていれば、必ずやチャンスは巡って来るでしょう。

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豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

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