東日本大震災

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ケナフ加工・販売事業始動へ 新産業で古里復興 農家と連携パルプ生産

工業製品の原料となるケナフを手に復興への貢献を誓う高久さん

■喜多方の高久俊秋さん 64

 喜多方市の農事組合法人代表高久俊秋さん(64)は、二酸化炭素(CO2)の吸収量が多い植物「ケナフ」を工業製品などの原料として製造・販売する取り組みを7月にも始める。市内の農家が栽培したケナフを買い取り、パルプ(セルロース繊維)に加工し、大手製紙業者や、自動車の内装材などに使われるバイオ(生分解性)プラスチックの製造業者に販売する仕組みだ。「農業と製造業が連携した新しい産業で古里を盛り上げたい」。生産者と2人3脚で復興への貢献を誓っている。
 高久さんは喜多方市出身。23歳の時に中国・福州市の中医薬科大(当時)に留学し、無農薬栽培や作物の生育に役立つ漢方などを学んだ。東京都の砂防広報センター事務局に勤務後、約15年前から新潟県長岡市に水田を借り、独学でCO2を削減する自然微生物農法を開発した。平成23年2月、古里の農業発展の力になろうと、同市に農事組合法人「ハート・プラザ」を設立した。
 約1カ月後、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が起きた。風評で農業などの地域産業が打撃を受ける姿を見て悔しさが募った。「研究成果を地元の復興に生かそう」。環境性に優れ、従来のバイオ資源より耐熱性と強度に優れるケナフに目を付けた。
 ケナフを使ったバイオ事業の流れは【図】の通り。市内農家が栽培したケナフを買い取り、粉末やチップにしてパルプ(セルロース繊維)を生産する。パルプは製紙業者や自動車の内装材などに使うバイオ(生分解性)プラスチックの製造業者へ、パルプ製造の過程で抽出されるリグニン(黒液)はバイオカーボンの製造のメーカーに卸す。
 7月に市内岩月町にパルプ生産工場が完成する予定で、昨年に試験栽培したケナフを用いてパルプ生産を始める。今年度はケナフ72トンで、パルプ12トン、リグニン11トンの出荷を見込んでいる。事業費は5700万円。機械導入費などに国の交付金活用を目指している。NPO法人グローバル・コロキウムと連携し、ケナフを使ったバイオプラスチック事業の研究機関を市内に設ける。
 昨年度に実施したケナフの栽培実験では、地元農家が進んで協力してくれた。今年4月、事業を担う株式会社「ハートプラザ」の設立と同時に、農家12人が「喜多方ケナフ生産者協議会」を発足させた。今年度は計約1・6ヘクタールの畑でケナフを栽培し、27年度には約30ヘクタールまで拡大させる予定だ。
 同協議会長の酒井健一さん(62)は「農家の所得向上や遊休農地の利用にもつながる。新事業の一翼を担いたい」と協力を惜しまない。
 高久さんは事業拡大による雇用推進で地域の経済復興に貢献する考えだ。「避難者が働く場所づくりも考えたい。元気な福島を取り戻すのが自分の役割」。古里への思いが原動力になっている。

※ケナフ アオイ科フヨウ属の1年草。アフリカ原産で洋麻などとも呼ばれる。成長が早く、1カ月に約1メートル伸びる。生育過程で大量の二酸化炭素(CO2)を吸収する。繊維の強度が高く、再生紙などにも利用される。

カテゴリー:連載・今を生きる

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