今「原子力」を考える:新聞労連・新研集会 なぜ「脱原発」敗れ去った 排除の論理を疑問視 /福井

毎日新聞 2013年06月05日 地方版

 「脱原発は、どこへ行った?」と題した集会が先月25日、日本新聞労働組合連合(新聞労連)新聞研究部の主催で東京都内で開かれた。福井県でも1年前、全国から脱原発を訴える団体や個人が集まり大飯原発の再稼働反対を訴えたが、あの熱気は今はもうない。なぜ脱原発は敗れ去ったのか。集会での議論を報告する。【佐藤慶】

 集会には、社会学者の開沼博氏▽北海道大学大学院准教授の中島岳志氏▽映画監督で作家の森達也氏−−の3氏が招かれた。まず、開沼氏が基調報告を行った。

 開沼氏は、脱原発運動は失敗し、現状は原発再稼働を見据えた新しい秩序に向かっているとして、「脱原発は誰にとっての希望だったのか」と問いかけた。

 答えを考えるため、脱原発という「希望」に乗れなかった人たちを例に挙げた。福島第1原発事故の前、福島県大熊町では「原子力最中」が、柏崎刈羽原発のある地域では「原子力つけめん」が売られていたという。開沼氏は「原発が文化になっている。ある種のアイデンティティーとし、ブランドとして地域を作ってきた。事故があったからといって、手放せるわけがない」と指摘した。

 原発を必要とせざるを得ない人たちと、首相官邸前に集まる人たちの間にずれが生じ、「脱原発」の言葉は福島を語りながら福島のためになっていないと説く。福島にスティグマ(負の烙印(らくいん))を与えて問題を大きく見せ、自らの活動を維持しようとするその手法を開沼氏は「排除による包摂」と呼び、「同意を得られないものだった」と批判した。

 基調報告の後、3氏による鼎談(ていだん)に移った。森氏は、甚大な被害の一方で、被災地以外の人たちが震災後も普通に生活している現実に触れ、「日本全体が後ろめたさみたいな意識を抱えた」と表現した。後ろめたさは社会を良い方向に変えることはなく、逆に不安や危機意識から「集団化に向かった」という。集団は敵を見つけ、強いリーダーを欲しがる。震災直後の都知事選での石原慎太郎氏、大阪市長選での橋下徹氏、衆院選での自民圧勝は、その流れに通じるという。

 集団化は「『誰が悪い』『こいつが悪い』という二元論的な構造」を強める。森氏は「3・11以降、東京電力をある意味で悪者化することで、善悪二元化が進み、結局は何も解明できないままに終わってしまう」と警鐘を鳴らした。

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