(cache) 辻静雄食文化賞

辻静雄食文化賞

辻 静雄 (つじ しずお)

●教育活動
辻調グループの創設者・辻静雄は教育者であり、研究者であった。辻調理師学校開校後、ヨーロッパに幾度も足を運び、料理への理解と文献に基づく研究を深めるとともに、多くの料理人と親交を結んだ。その研究成果は、著書の『フランス料理 理論と実際』が辻調理師学校での教科書として用いられるなど理論教育に生かされ、シェフたちとの交友関係は、本物のフランス料理を学ぶ機会を与える手助けとなった。
辻 静雄
辻調理師学校の特別授業として1972年から始めた公開技術講座では、ポール・ボキューズをはじめ、ジャン・トロワグロ、ベルナール・ロワゾーなど多くのシェフを招聘し、日本にいながらにして当代一流のフランス料理とその技術に触れる機会を与えた。その一方で、同校教授陣をヨーロッパに料理研修に多数送り出し、その知識・技術の向上と、現地からの新しい情報は、日本での料理教育の質を上げることにつながった。
1980年にはフランス、ローヌ県にフランス校を開校、徹底的に現地で本場のフランス料理を学ばせる課程を設けた。フランス校で6ヶ月、さらに5ヶ月間はフランス国内のレストランで実地研修を行うというプログラムには、現地でその時代の料理に触れさせるという教育方針が貫かれている。国内においては専門分野に特化した課程を増やし、専門化・多様化する時代のニーズに即した人材を輩出した。
辻調グループは開校以来、今日までに12万7500名以上の卒業生を送り出している。
●研究活動
辻静雄が研究を始めた当初、西洋料理の専門研究書はまだ翻訳されておらず、英仏文献を頼りにフランス料理を学んだ。渡欧するたびに収集した文献の中には現在入手困難なものも多く含まれ、質・規模ともに世界でも有数のコレクションとなっている。
料理を歴史・文化の流れの中で捉えた辻静雄の研究成果は、多数の出版物として広く一般に還元されており、1989年刊行の『エスコフィエ 偉大なる料理人の生涯』をはじめとするフランス料理に関する著作は、権威ある研究書として認められている。中でも、図版多数を盛り込みながら19世紀フランス料理を体系的につづった『フランス料理研究』は代表作である。
アレクサンドル・デュマの『デュマの大料理事典』やヒュー・ジョンソンの『ポケット・ワイン・ブック』などでは、翻訳および翻訳監修に携わっている。監修書には、フランス料理技術紹介の集大成である『現代フランス料理宝典』や『朝日百科 世界の食べもの(全十四巻)』などがある。その他、エッセイやレストランガイド、開高健、湯木貞一、大岡信らとの食卓での対談をまとめた『プルーストと同じ食卓で 辻静雄からの招待状』などの対談本も出版されている。
著作活動以外では、TBS系列番組「料理天国」での番組監修のほか、NHK教育テレビ「対論 時代を読む・食卓の快楽」に出演し開高健と対談するなど、マスメディアを通しての料理文化普及活動につとめた。1978年に行われた朝日新聞社主催・朝日ゼミナール(朝日新聞社から『食事の文化』として刊行)など、講演活動も行っている。
1970年代初め頃から日本料理研究にも取り組み始め、1980年に出版した『JAPANESE COOKING-A SIMPLE ART』は現在でも日本料理研究の基本文献となっている。また、日本料理の師と仰いだ湯木貞一との共著で『吉兆 料理花伝』を出版。湯木とフランス一流シェフたちとの交流の機会を設け、日本に招いたシェフたちに「吉兆」をはじめとする日本の最高水準の料理を紹介するなど、東西料理文化交流の橋渡し的役割も担った。

●辻静雄略年譜

1933年(昭和8年)
2月13日、東京・本郷に生まれる。
1957年(昭和32年)
早稲田大学文学部仏文科卒業。大阪読売新聞社に入社し、社会部記者となる。
1960年(昭和35年)
大阪読売新聞社を退職後、大阪・阿倍野に辻調理師学校を開校。
1963年(昭和38年)
フランス料理研究の手引きを受けるためアメリカに渡り、研究者であるサミュエル・チェンバレイン(マサチューセッツ工科大学教授)とM.F.K.フィッシャー(カリフォルニア大学教授)の知遇を得る。その足でフランスに渡り、高名を馳せていたレストラン「ピラミッド」を訪れる。女主人であるポワン夫人の示唆を受け、アレクサンドル・デュメーヌ、アンドレ・ピック、レーモン・オリヴェなどの大シェフたちと親交を結ぶ。
1964年(昭和39年)
はじめての著書となる『フランス料理理論と実際』(光生館)を刊行。
1969年(昭和44年)
辻調グループ教授陣の海外研修を開始。フランス・イタリアをはじめとするヨーロッパ諸国、アメリカ、香港などへ派遣。
1972年(昭和47年)
フランス政府より「M.O.F.(フランス最優秀職人)名誉賞」を外国人として初めて授与される。この年、新進気鋭のポール・ボキューズとジャン=ポール・ラコンブを迎え、公開技術講座を開講。海外からの料理長招聘の第一回目となる。
1975年(昭和50年)
TBS系列のテレビ番組「料理天国」の放送が開始。1992年の放映終了まで、辻調グループの教授陣が協力・出演。この番組の監修にあたる。
1977年(昭和52年)
『フランス料理研究』(大修館書店)刊行。イギリスのワイン研究家ヒュー・ジョンソンと交友を深め、後年、彼の著作の翻訳監修をつとめる。
1980年(昭和55年)
フランス・リヨン近郊にフランス校(シャトー・ド・レクレール)を開校。
1981年(昭和56年)
フランス政府より「教育功労章」のシュヴァリエ章を授与される。
1983年(昭和58年)
大阪・高麗橋の料亭「吉兆」の創業者である湯木貞一との対談『吉兆料理花伝』(新潮社)を刊行。
1984年(昭和59年)
辻製菓技術学校(現・辻製菓専門学校)開校。
1988年(昭和63年)
辻調理技術研究所開校。NHK教育テレビ「対論時代を読む・食卓の快楽」で開高健と対談。
1989年(平成元年)
フランス政府より「農事功労章」のオフィシエ章を授与される。大阪にエコール・キュリネール大阪あべの(現・エコール 辻 大阪)、フランス・リヨン近郊に第2フランス校(シャトー・エスコフィエ)開校。「岩波市民セミナー」での連続講演をまとめた『ブリア‐サヴァラン「美味礼賛」を読む』(岩波書店)を刊行。
1991年(平成3年)
東京にエコール・キュリネール国立(現・エコール 辻 東京)を開校。フランスの食味評論家アンリ・ゴーとの共同監修による『現代フランス料理宝典(全12巻)』(学習研究社)の刊行が始まる。
1993年(平成5年)
3月2日逝去。享年60。辻芳樹が辻調グループの校長として就任。
1994年(平成6年)
遺稿集『料理に「究極」なし』(文藝春秋)刊行。
1995年(平成7年)
『辻静雄著作集』(新潮社全1巻)刊行。
2004年(平成16年)
『辻静雄コレクション』(ちくま文庫全3巻)と、『フランス料理を築いた人びと』(中公文庫)刊行。
2009年(平成21年)
若き日の著作『フランス料理の学び方特質と歴史』が中公文庫で刊行。

●著作一覧