2013年2月8日(金)

軍備増強するインド その狙いは?

鎌倉
「インドで今、2年に1度の国際航空ショーが開かれています。
この航空ショーでは、軍用機などの売り込みも行われ、各国の企業がインド政府に最新鋭の戦闘機などの技術をアピールする場となっています。」


傍田
「経済発展が著しいインドは、ここ数年、各国から大量の兵器の輸入を続けている、『武器輸入大国』でもあります。
今日(8日)は、軍備の増強を急ぐインドの戦略と、その背景を読み解きます。
まずは、インドの兵器輸入の現状について黒木さんからです。」



黒木
「こちらは、過去5年間の世界各国の兵器輸入額の推移です。
ご覧のとおり、5年連続でインドが世界1位です。
インドは、一昨年(2011年)までの5年間に126億ドルあまり、日本円でおよそ
1兆2,000億円の兵器を輸入し、その割合は、世界全体の取引額の10%にあたります。



またインドの国防予算は年々増えていて、今年度は1兆9,000億ルピー、日本円で
3兆3,000億円あまりにのぼり、前の年に比べて17.6%増えています。」

鎌倉
「インドによる兵器の輸入が拡大している背景を取材しました。」

世界が注目 インド兵器市場

IT企業が集中し、インドのシリコンバレーとも呼ばれる南部のバンガロール。
ここはインド最大の航空機メーカーなど、軍関連の企業や研究機関が集まっている街でもあります。
このバンガロールの空軍基地で、今週国際航空ショーが始まりました。


菅谷記者
「航空ショーが始まりました。
アメリカやフランスの航空機メーカーの戦闘機がデモ飛行して、性能をアピールしています。」

ショーの中でその存在感を際だたせたのが、フランスです。
インドは去年(2012年)、これまでのロシア製のミグに代わる主力戦闘機として、フランスの最新の戦闘機ラファールを126機購入すると発表。
総額100億ドルを上回ると言われる大型契約が注目を集めました。
世界中の戦闘機メーカーが争った受注競争にフランスが勝利したのは、戦闘機の技術をインドに供与するライセンス生産を了承したからだともいわれています。

今や、世界の軍需産業が最も注目する国がインドだといわれています。
今回の航空ショーではそれを象徴するようにアメリカの戦闘機やイスラエルの無人偵察機、さらには日本の海難救助用の飛行艇までが参加。
650以上の企業が熱烈な売り込みをはかっています。


ボーイング社営業担当
「インドは10年、15年後を見据えて軍備を近代化しています。
この地域で、国際社会に対して影響力を持とうとしています。」

インドはこれまで、戦闘機の多くを伝統的な友好国であるロシアから購入してきました。
しかし世界の兵器産業がインドに注目する中、ロシアも危機感を感じているようです。
ロシアは3年前(2010年)から、インドと最新鋭の戦闘機の共同開発を行っています。
レーダーで探知されにくいステルス戦闘機を、将来両国で実践配備するのが目標です。

ロシア 兵器輸出企業担当者
「インドとロシアは歴史に裏打ちされた、安定した関係を維持しています。
インド軍は他のどの国の軍よりもロシアの良さを知っています。」

進む軍備近代化 ライバルは中国

世界の最先端の技術を短期間で吸収し、軍備の最新鋭化を進めようとしているインド。
その背景にあるのが、中国の存在です。
中国は去年9月、初めての空母が海軍に正式に配備されたと発表。
また中国産のステルス戦闘機と言われる殲(せん)20や殲31の試験飛行も行われるなど、急速に軍備増強、ハイテク化を進めています。
さらに中国はインドを取り囲むように、友好国のパキスタンやミャンマーに多額の支援を行って大規模な港を建設。
先週にはパキスタンの港の管理権を取得するなど、インド洋への進出も活発です。
海軍を近代化させ、インド洋全体の権益を視野に入れているインドにとって、見逃すことのできない動きです。
インドのアントニー国防相は、今後も軍備の近代化を進める考えを強調しました。

インド アントニー国防相
「軍の近代化のペースを遅らせることはない。
我が国を取り巻く、新たな安全保障上の脅威があるからだ。」



インドは兵器の輸入を拡大させる一方で、去年4月にはアジアのほぼ全域を射程に収めるとされる国産の長距離弾道ミサイル、「アグニ5」を開発。
さらに先月(1月)潜水艦発射型の弾道ミサイルを開発するなど、国産兵器の開発も急いでいます。
専門家は、次のように指摘しています。

インド 軍事専門家 ウダイ・バスカル氏
「インドは中国を強く意識し、東シナ海や南シナ海での動きを注視しています。
インドは安定を守るため、中国と互角の軍事力を確保するべきだと考えています。」

中国を強く意識しながら軍備の近代化を進めるインド。
その動きを世界が注目しています。

インド軍備増強 “中国への懸念”

傍田
「インドが今や世界最大の兵器購入国ということですが、相当中国を意識しているようですね。」

菅谷記者
「もともとインドの安全保障上の関心は、中国と、カシミール地方の領有権などで対立しているパキスタンにありますが、近年ではとりわけ中国に対し、神経をとがらせているようです。
特に中国が、ステルス戦闘機など、国産の兵器を次々と開発していることを重要視しているとみられます。
インドが戦闘機の共同開発やライセンス生産にこだわっているのも、一刻も早く自前の技術で最新鋭の武器を作りたいというあせりの裏返しとも言えます。
その一方でインドは、今回の航空ショーに中国の関係者も呼んでいます。
インドがロシアやフランス、アメリカなどからも自由に武器を購入できる有利な立場にあることを中国側に見せつける狙いがあったという見方も出ており、インドが中国を強く意識していることは間違いないと言えます。」

進む軍備増強 周辺地域への影響は

鎌倉
「インドの軍備増強の動きは、周辺の地域にはどういった影響を与える可能性があるんでしょうか。」

菅谷記者
「リポートでご紹介した戦闘機の他にも、インドは原子力潜水艦の開発・配備や空母の開発など、海軍力の増強も進めています。
こうした軍備の拡張は、インド洋を中心とするアジア地域に巨大な軍事パワーを生むことになります。
インド軍の幹部は、インド洋を含め、外洋でのインドの権益や安全保障の確保に深く関与する姿勢を見せています。」

インド海軍 ジョシ参謀長
「いま各国の関心は、海洋資源の確保に移っている。
インド海軍の役割は、インドから離れた海や海岸であっても、インドの国益を守ることにある。」


菅谷記者
「インドも中国と同様、海洋権益を守ることを全面に打ち出して軍備の増強を進めているわけです。
インド軍の強化によって、この地域のパワーバランスがどう変化していくのか。
今後も注目していく必要がありそうです。」

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