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» 2013年05月29日 17時19分 UPDATE

「嫌だから規制する」なのか──児童ポルノ禁止法改定案、その背後にあるもの (2/3)

[堀田純司,ITmedia]

――バイヤーの人に聞くと、中国の現代文学で、版権を取りたいものってそんなにないそうなんです。「あれだけの巨大な物語の伝統がある国にしてなんで?」と思うところですが、答えは簡単で「表現の規制が強いから」なんですよね。

 以前「非実在青少年」の概念で東京都の表現規制が注目を集めたことがありましたが、あれは法人による「販売の規制」でした。今回の改定案は「所持の規制」。つまり個人が持っていてもダメ。論説ではその危険性を指摘しています。

幸森 やっぱり今回の改定の最も大きな問題は、「漫画やアニメやCG」という創作の絵に規制が及び、それを所持することへの展望を盛り込んでいるところだと思います。なぜかというとそれは「想像力を規制する」ということに他ならないからです。

 実写の場合は被害者がいる。これは犯罪であり、当然、禁止すべきことです。しかし想像力まで規制するのは果たして健全なことなのか。漫画やアニメは想像の産物です。その想像力を形にすることが禁止される。そんなのは前時代的な話であって、ひどく後進的な思想だと思うんですよ。

――以前、プロのイラストレーターが絵がうまくなるコツとして「好きな異性のキャラを描き続けろ」とアドバイスしているのを見たことがあります。もっともです。で、中学生が自分の好きなキャラを描けば、当然少年少女になることが多いでしょう。そして人間性の常として、そこに性的な表現も当然出てくるでしょう。しかしそうして自分で描いた性的な絵を持っていたらアウトということになる。「いつの時代の話だ」と感じます。それに「画力が低いころはヘタだからポルノじゃない。しかしうまくなった後の作品はポルノだ」などという、バカな話に。

幸森 もともと著作権的にグレーだった同人誌の分野は、これでバッサリとアウトになってしまうんですよね。同人分野という下支えがあった中で、そこで才能が出てきて、商業としても成功していったという流れが現実にある。その根っこを切ってしまってはいかんだろ、と思いますよ。その影響は大きすぎる。今回、別に対象は少女に限ってないですから……。

――ショタもアウトですね。

幸森 アウトです。確かに同人分野も性的な表現があふれ、すべてが肯定できるわけではない。それは現実かもしれない。しかし「悪い物と思うものを全部消してしまったら、いい世の中になるんですか」というと、そんなことはないでしょう。

――人間の社会って、黒を消したら白だけになるかというと、新たな黒ができるだけなんですよね。すべてが言葉にして明示できるオープンな部分でできている訳じゃなく、実はそんなのは人間の心のごく一部分にしか過ぎない。ただ村上春樹さんもおっしゃっていますが、創作者というものはその領域にまで降りてスリリングなものをつくろうとする。

 今回の改定からは、そうした、人間性の真実に対する洞察の薄っぺらさを正直……。

「嫌だから規制します」

幸森 これは東京都の条例の時からさんざん言ってきたことですが、アダルト漫画やゲームが人に悪影響を及ぼしているという見方になにか科学的根拠はあるのかと。それはいまだにまったくないんですよ。また、なにかというと「日本は児童ポルノ製造大国」なんてことをいう人もいますけど、これもまったく根拠がないんです。結局のところ「嫌だから規制します」ということにつきる。全否定なんです。

――その気持ちもわからないでもないです。「こんなものが世の中に流通しているのか」と思うと、自分の家族に今にも脅威が迫っているようにも感じることもあるでしょう。でも、実はそういうのは現実的にはごくニッチな、マイナーな存在で、すでにゾーニングされた存在なんですよね。

幸森 「ONE PIECE」みたいに売れていたら、そりゃ問題ですけど。

――根底には「世の中には危険な漫画やゲームがあふれていて、青少年がそれに触れて歪んで少女を襲いだす」という世界観が根強いんでしょうね。ある意味、それも妄想なのですが……。規制したほうがいいな。

幸森 むしろ想像する、クリエイティブすることによって欲望を昇華している部分はあるはずです。それに表現の自由って、なにも「表現する側」の自由だけじゃないんです。「表現されたものを知る自由」でもある。公に許された、大本営発表だけが発表されて、それだけを信じる世の中でいいのかよと思いますね。

――一方では「クールジャパン」などと言っておきながら、一方では規制する。皮肉な話ですね。

幸森 そうですね。しかしもともと「クールジャパン」なんていっても……。

――確かに……。しかし、想像することはそれだけで罪なのか。実は、キリスト教では原理的に「Yes」です。その点で、日本は割合に個人の趣味に寛容でした。筒井康隆さんは「タブーの多い社会ほど原始社会である」とおっしゃっていましたが、このことは日本のむしろいいところで、海外のクリエーターが感心する部分です。日本社会がまだ欧米ほど荒れておらず、また日本で漫画やアニメが発展したのは、間違いなくこうした土壌があってのことだと思います。

幸森 そうですね。それは間違いないと思います。

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