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取材ウラ日記
「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」のロケはディレクターとカメラマンの2人きり。耳寄りな情報があれば、砂漠やジャングル、極寒のツンドラ、世界中どこへでも出かけていきます。このコーナーでは、ディレクターの撮影裏話をのせていくことにしました。これを読むと、一味違った番組の楽しみ方ができるかもしれません。
この先はディレクターの個人的見解と誇大な表現が満載です。マユにツバをつけてお読みください。
北海道の湿原編 →取材の成果:「巨大魚イトウ 猛突進!」
取材ウラ日記のバックナンバー
いくつもの別名がある「いわくつき」の魚
「鬼の魚」イトウ
「鬼の魚」イトウ
ある友人(番組関係者ではありません)に「イトウ」を撮影する、と言ったら、なんで「ダーウィンが来た!」で人間の取材をするの? と聞き返されてしまいました。その友人に、「伊藤さん」ではなく、魚の「イトウ」だ、と説明してもきょとんとしています。確かに動物に詳しい人でないと、「イトウ」って何だかわからないのも、無理ない話かもしれません。

でもこの魚、“魚偏に鬼”と書いたり、“湿原の川の王者”と呼ばれるなど、いくつもの別名があるすごい魚なんです。でも、そういった名前のうち、最も知られているのが“幻の魚”。数が少ない上に生態も良く分かっていない、どこに住んでいるかすら、見当もつかない、というありさまです。

で、今度は、番組関係者である同僚に、イトウを撮影すると言ったら、皆が皆、「本当に番組に出来るの?」と聞き返してきました。それほど撮影の難易度が高い生きものでもあるんです。
撮影は2年がかり
巨大魚イトウに接近
巨大魚イトウに接近
サクラマスの群れの後を泳ぐイトウ
サクラマスの群れの後を泳ぐイトウ
実はこの番組、取材と撮影は丸2年かけています。最初の年でロケする場所(保護の観点からお教えすることはできませんが・・・)と季節を大体決めることができ、数カットだけイトウの姿も撮影出来ました。数カットだけ、というとウソくさく感じられるかもしれませんが、これは本当の話です。イトウはある場所に留まる、ということがあまりなく、時期や天候などによりいろいろな所に行ってしまいます。それが良く分からなかったため、タイミングに関して後手後手に回ってしまったから、というのが敗因でした。2年目は、何とかイトウが起こす様々な行動のタイミングに合わせて撮影が進められたので、こうして無事「ウラ日記」を書くことができた、というわけです。でも、後にして思えばかなりの幸運に恵まれていたと、実感しています。
神出鬼没! まさに「幻の魚」
メスを巡るオス同士の戦い
メスを巡るオス同士の戦い
巨大魚VS巨大魚
巨大魚VS巨大魚
大きさ1m・「赤鬼」の激闘
大きさ1m「赤鬼」の激闘
撮影は、地元で研究している人たちの力を借りてプランを立てた上で、さまざまな機材を揃えて行いました。イトウの産卵を撮影する際は、まだ大量に雪が残っている時期、川の上流部に機材を運ばなければならず、苦労の連続でした。しかも一つの川でのイトウの産卵時期は、わずか10日ほどしかありません。それ以前でも以降でも、イトウは姿を現しません。しかも産卵のピークは、川の水に雪解け由来の濁りがなくなり、水深が浅すぎず深すぎない日に限られます。最大で2日間ぐらいです。地元の人たちの協力で、何本かの川にヤマをはり、確率を出来る限り高めた上で、何とか撮れたのが、迫力ある「赤鬼」シーンです。
幸運に恵まれた「狩り」の撮影
浅瀬の獲物目がけて突進
浅瀬の獲物目がけて突進
狩りの瞬間大きな口をあけるイトウ
狩りの瞬間大きな口をあけるイトウ
イトウの狩りの撮影も、幸運に恵まれました。本来、川のどこでも自由に行き来するので、どこで狩りをするかは、魚に聞かない限りわかるはずがありません。そこでイトウが好んで食べる小魚が大量に現れる時期を狙い、さらには撮影に都合のよい場所で待ち構える、という作戦をとることにしたんです。でも、人間が考える様には、簡単にはいきませんでした。そもそも小魚の現れる時期が種類により限定されていて、タイミングの見極めが微妙です。そのうえ天気の良い日が続かなければ、川の水の濁りが取れず、例えそこにイトウがいても撮影出来ません。雨の日は水面下のイトウは波紋で見えず、お話になりません。でも、小魚とそれを狙うイトウはお天気や撮影コンディションに関係なく、自分たちの体内リズムで動いています。実際、1ヶ月以上あったロケのうち、撮影可能な「チャンス」は1週間もありませんでした。そんな中で撮影できたのが番組の映像です。もしかしたら自分は今回の撮影で、一生のうち限られた「運」をほとんど使い切ってしまったのかもしれない、とさえ考えてしまうほどです。
「幻の魚」について考える
20年も長生きするといわれるイトウ
20年も長生きするといわれるイトウ
大きな口を開けてのイトウの産卵
大きな口を開けてのイトウの産卵
川岸にイトウ接近!
川岸にイトウ接近!
北海道を代表する生きものの撮影に挑戦したい! というのが今回の番組制作の一番の動機でした。これまで、いく種もの北海道の生きものを「ダーウィンが来た!」でご紹介してきましたが、珍しさではイトウが一番ではないか、と(私だけかもしれませんが)思っています。

ところで、何でイトウが「幻の魚」と呼ばれるのか、撮影を通して実感したことがあります。ササやぶを30分かけて抜けたり、ずぶずぶと沈みながら湿原を歩いたり、肉体的にはきつかったのですが、現場の川は風景がとても美しく、水辺の生きものもとても豊かで、撮影は不思議と楽しかったんです。番組でも少し触れましたが、本当に自然が残されている場所でイトウは泳いでいたんですね。でも北海道でもそんな川は残り少なくなっています。幻の魚と呼ばれるのも無理はないんです。

今回お世話になった人たちは、みんなイトウの行く末を案じていました。今はまだ「幻」と呼ばれる段階で踏みとどまっているイトウですが、もしかしたら、いつか「昔話」の中にしかいなくなってしまうかも知れません。あんなにダイナミックで素敵な生きものが、これからもずっと泳ぎ続けて欲しい、そう願っています。
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