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「アフリカの世紀」に乗り遅れる大陸最大の経済大国

南アフリカ経済を苦しめる労使問題と与党内対立

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2013年6月6日(木)

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 アパルトヘイトの負の遺産として、多くの黒人の居住地が、仕事のある地域から遠く離れているという問題がある。公共交通機関の整備が十分でないため、求職面接に行くだけでもかなりの費用がかかる。

 ここから分かるように、南アフリカの労働市場は、守られている者と排除される者との格差がはっきりしている。それは企業でも同じだ。南アフリカの産業規制は、OECDが調査している40数カ国の中でも特に厳しい。規制が煩雑なため、新興企業が成長して雇用を生み出すことがなかなかできない。反面、既存の大企業は安閑としていられる。

 大企業と大労組との間で結ばれた賃金協定が、交渉評議会を通じてほかの労組にも押しつけらる。その結果、中小企業は不利な立場に追い込まれる。賃金協定は新興企業にとって参入障壁として機能する。最近実施された研究によると、部門別で賃金協定を結ぶと、その影響を受ける産業の求人数が8〜13%減るという。

与党ANCを縛る党内の亀裂

 南アフリカ政府が、経済の足を引っ張るこうした構造的問題に気づいていないはずはない。ANCは、成長への障害を特定し、それに対処する戦略をまとめた包括的な全国開発計画(NDP)を承認した。

 この計画の立案を主導したのは、長く務めた財務相時代に大きな実績を残したトレバー・マヌエル氏と、労組畑の大物シリル・ラマフォサ氏だ。ラマフォサ氏は現在、ANCナンバー2の地位にある(すなわち、次期大統領になる可能性が高い)。マヌエル氏を継いだプラビン・ゴーダン現財務相もNDPを支持している。

 しかし、NDPの実行は、悲しいほど進んでいない。ジェイコブ・ズマ大統領は、この計画についてリップサービス以上の積極的な関与をしていない。ANC党内の全員が賛成しているわけでもない。

 ANCは、NDPを支持する経済リベラル派と、国家統制主義的アプローチを支持する閣僚との間で、イデオロギー的な深い亀裂を抱え、行き詰まっている。労働組合と同盟を組む左寄りの国家統制主義派には、ロブ・デービス貿易産業相やエブラヒム・パテル経済開発相らが属する。両閣僚とも、(ANCに所属しているが)共産党員でもある。国家統制主義派は中国を頼りにしているが、外資の導入を促す環境作りが成功の柱だとは考えていないようだ。

 この亀裂を象徴しているのが、若者の失業問題に対する取り組みの失敗だ。リベラル派は、若い未経験者を雇った雇用者に税制上の優遇措置を与える案を支持している。労働組合は、この税制改革案の成立を阻んでいる。この優遇措置は、高齢の労働者が、補助金付きで雇われた若者に取って代わられ、失業すると主張したのだ(根拠は乏しい)。労組と企業の賛成を得て代わりに浮上してきた案は、若者の就職枠を別に作ることや、青年団組織の創設などを含む、説得力のない対策パッケージだった。

その場しのぎはもう通用しない

 脆弱な経済成長とランド安は、リベラル派に有利に働くかもしれない。ANCが2014年の総選挙で政権を失う可能性は低い。しかし、最大野党の民主同盟は、ハウテン州の州議会選挙に力と予算を注ぎ込んでいる。民主同盟がハウテン州で勝ち、西ケープ州で第1党の地位を維持すれば、(南アの9つの州のうち)ヨハネスブルグとケープタウンという2つの大都市圏を含む2つの州で政権を担うことになる。

 ANCは都市部の有権者向けて、経済の復興戦略があることを訴える必要がある。南アフリカが抱える公的債務の3分の1を負担する外国の投資家も、財政と経常収支の双子の赤字を支え続けるには、それなりの理由を必要とする。

 その場しのぎを続ける現在の南アフリカの政治のあり方は、もう通用しないところまで来ている。

©2013 The Economist Newspaper Limited.
May. 27th, 2013 All rights reserved.

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

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