20051116地域社会学I
l パークとバージェスは、シカゴをフィールドとするモノグラフ研究が多数シカゴ学派社会学の「黄金時代」と呼ばれる1920年代、シカゴ大学社会学部の中心人物
Ø 二人は、シカゴで社会調査をおこなうシカゴ大学の大学院生を指導
Ø これらの大学院生の博士論文の多くが、社会学シリーズとして、シカゴ大学出版局から次々と出版されていく
l Robert Ezra Park(1864―1944)
Ø シカゴ学派の中心的人物
Ø 1864年、ペンシルバニア州生まれ
Ø ミシガン大学を卒業し、新聞記者になる
Ø 再び学問の道を目指し、ハーバード大学で修士号、ハイデルベルグ大学で博士号を取得、大学助手になる
Ø アメリカ南部の黒人教育運動の協力者として活動するなかで出会ったトマスによってシカゴ大学に招かれ、1914年から1933年までシカゴ大学に在職
l Ernest Watson Burgess(1886―1966)
Ø 1886年、オンタリオ州生まれ
Ø シカゴ大学で博士号を取得
Ø 1916年から1957までシカゴ大学に在職
l パークとバージェスの共同作品
Ø 『科学としての社会学入門』(1921年)(Introduction to the Science of Sociology)
² パークとバージェスによる社会学の教科書
² 1943年に絶版となるまでベストセラーの教科書
l 緑色の表紙から「グリーンバイブル」と呼ばれた
Ø 『都市』(1925年)(The City)
² パークとバージェスの編著による都市に関する論文集
² 都市研究における人間生態学的視点を提示
l 「都市」=「空間的パターン」+「道徳的秩序」
Ø 「都市というものは、単なる個人個人の集まりでもなければ、また街路や建物や電灯や軌道や電話などの社会的施設の集まりでもない。それ以上の何ものかである。(中略)むしろ都市というものは、一種の心の状態(a state of mind)であり、慣習や伝統の集合体であり、またもともとこれらの慣習のなかに息づいており、その伝統とともに受け継がれている組織された態度や環状の集合体でもある。」(Park 1925=1972: 1)
² 「都市コミュニティとは、一定の『空間的パターン』と『道徳的秩序』とが独特な形で結合した社会である(Park 1926)。パークによるこの都市の規定は、後にワースによって『アーバニズム』の理論として洗練されることになった。」(町村 1986: 233)
l こうしたパークの都市認識の根底には、人間生態学の考え方がある
Ø 空間的パターン=コミュニティ(群集)
Ø 道徳的秩序=ソサイアティ
l コミュニティとソサイアティ(倉沢 1998: 21-4)
Ø ここでのコミュニティは、「コミュニケーションやコンセンサスをもたない人びとの集合」という意味
² アソシエーションと対置される意味でのコミュニティではない
Ø ソサイアティ=コミュニケーションとコンセンサスをもつ人びとの集団
l 都市研究に向けたパークの問い
Ø どのようにコミュニティが形成され、どのようにソサイアティへと変わっていくのか
l 定義
Ø 都市を1つの生態系と見なし、凝離(segregation)という生態学的過程から都市における人間の空間的構造を探究して、さらに、各々の空間で展開される社会過程から社会組織を探究する。
l 生物生態学と人間生態学
Ø 生物学の生態学から多くの概念を借用
Ø 人間社会は、植物や動物の社会とは違って、生物レベルと文化レベルという二つのレベルで組織されている
² 生物レベル:競争に基づく共生的社会=コミュニティ
² 文化レベル:コミュニケーションとコンセンサスに基づく文化的社会=ソサイアティ
Ø 生物生態学:生物レベル(=コミュニティ)
Ø 人間生態学:生物レベル+文化レベル(=コミュニティ+ソサイアティ)
l 人間生態学における生態学的過程(コミュニティ・レベル=生物学的レベル)
Ø 生息場所の決定要因
² 植物コミュニティ=光や水
l 植物にとって必須の光や水という資源をめぐる競争で勝ち抜いた種=優占種
Ø 森林では、通常、光を得やすい背の高い樹木
² 人間コミュニティ=地価
l 高い利益を生み出す土地をめぐる競争を勝ち抜いた人間(集団)=優占種
Ø 都市では、通常、都心部の地価の高い土地を手に入れた人間
² 「戦略的な立地点をめぐる工業や商業の諸施設の争いは、長期的にみれば、都市コミュニティの主要な輪郭を決定している。(中略)優占地域というのはどのコミュニティでもたいてい、地価の最も高い地域となる。そしてどの大都市にも、通常二カ所の最高地価地点がある──ひとつは都心ショッピング地区、もうひとつは中央銀行街である。これらの地点から都市コミュニティの周辺に向かって、順に、地価は初め急激に下がり、ついでもっとゆっくり低下する。諸社会施設や企業活動がどこに立地するかを決めるのは、まさにこれら地価である。」(Park 1936=1986: 167-8)
Ø 凝離(segregation=すみわけ)
² 競争を通して、それぞれが異なる環境に生息場所を定める過程。この結果、都市は、さまざまな特徴を持ったコミュニティのモザイク状になる。
² 自然地域(natural area)
l 凝離によって現れたコミュニティ(=群集)
l 『ゴールド・コーストとスラム』の第3〜8章は自然地帯の記述
Ø 「ゴールド・コースト」「貸部屋地区」「タワータウン」「暗黒街」「スラム」「リトル・シシリー」など
l 人間生態学における社会的過程(ソサイアティ・レベル=文化的レベル)
Ø 孤立していた諸個人が接触し、相互作用を開始することによって社会が形成される
Ø 相互作用(interaction)の4類型:競争・闘争・応化・同化(吉田・寺岡 1997: 109-13)
² 競争=生態学的過程
² 闘争・応化・同化=社会的過程
l 競争を制御する社会制度や社会組織を生み出す
Ø 競争(competition)
l 相手との直接的なコミュニケーションのない競合的なやりとり
Ø 環境が与える同一の資源を目指して、間接的に関係し合うやりとり
Ø 競合している相手を直接には知らない
Ø 例:植物社会。様々な種類の植物が環境に適応して相互独立的に棲息しているが、それらはお互いの存在を意識しているわけではない
l 相互作用の4類型のうち、最も基本的、普遍的、かつ根本的な形態
Ø 闘争(conflict)
l 相手とのコミュニケーションが成立している競合的なやりとり
Ø 競合している相手を直接知っている
Ø 同一の資源をめぐって、互いが相手を直接に妨害する
Ø 例:戦争、敵対関係、ギャング、人種的対立など
Ø 応化(accommodation)
l 不平等な関係を互いに承認した安定的なやりとり
Ø 競争や闘争によって形成された不安定な社会的状況に、個人や集団が適応する過程
² 特に、闘争は、殴られたほうも痛ければ殴ったほうも痛いという互いが傷を負う関係
² したがって、自分の利益を確保しながら、いかに闘争を終えるかが、競合関係にある両者の課題になる(応化の契機)。
Ø それぞれの人びとが、それぞれの地位に付帯する役割を十分に取得して、敵対心が生じずにいる安定的関係
Ø 応化は、伝統や慣習、制度、文化、技術などの形で社会的に持続される → 社会組織や社会構造が生まれる
Ø 例:奴隷制、カースト制
Ø 同化(assimilation)
l 平等な関係を互いに承認した安定的なやりとり
Ø 「人間や集団が他者や他集団の記憶や感情、態度を、その歴史と経験を共有することによって取得する、相互浸透と混合の過程であり、それは人びとを共通の文化生活のなかに編入する」(吉田・寺岡 1997: 112)
Ø 応化の際の不平等な構造を改め、平等なライフチャンスや社会参加が可能になること、またそれが可能になるようなコミュニケーションが成立すること
Ø 同化は、一種の理想状態であり、応化が一般的状態
表:4つの相互作用
|
コミュニケーション |
コンセンサス(合意) |
参加や存在の平等性 |
競争 |
× |
× |
× |
闘争 |
○ |
× |
× |
応化 |
○ |
○ |
× |
同化 |
○ |
○ |
○ |
l 中野正大・宝月誠編, 2003, 『シカゴ学派の社会学』 世界思想社.
l 町村敬志, 1986, 「『原型』としての都市社会学──R・E・パークが残したもの」 『実験室としての都市──パーク社会学論文選』 御茶の水書房, 229-48.
l Park, Robert, E., 1926, "The Urban Community as a Spatial Pattern and a Moral Order," E. W. Burgess ed, The Urban Community, Chicago: University of Chicago Press.
l Park, Robert E., 1925, "The City: Suggestions for the Investigation of Human Behavior in the Urban Environment," Robert E. Park, Ernest W. Burgess and Roderick D. McKenzie, The City, Chicago: University of Chicago Press.(=1972, 大道安次郎・倉田和四生訳 『都市──人間生態学とコミュニティ論』 鹿島出版会, 1-48.)
l Park, Robert E., 1936, "Human Ecology," American Journal of Sociology 42(1): 1-15.(=1986, 町村敬志・好井裕明編訳 『実験室としての都市──パーク社会学論文選』 御茶の水書房, 155-80.)
l 吉田竜司・寺岡伸悟, 1997, 「シカゴ学派成立のマニフェスト──ロバート・E・パーク、アーネスト・W・バージェス『科学としての社会学入門』」 宝月誠・中野正大編 『シカゴ社会学の研究──初期モノグラフを読む』 恒星社厚生閣, 95-130.
l 倉沢進, 1998, 『コミュニティ論──地域社会と住民活動』 放送大学教育振興会.