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【暮らし】

後絶たない やけど事故 転倒すると熱湯が漏出

転倒すると注ぎ口から湯が漏れ出るティファール電気ケトル。電気コードも含め、子どもの手が届く場所での使用は避けるべきだ

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 電気ケトルの熱湯によるやけどが後を絶たない。事故のほとんどは、転倒すると湯が大量に漏れ出る製品で起こっている。国内で一千万台超が売れたヒット商品ティファール電気ケトル(グループセブジャパン)は、このタイプが主流。欧米で問題なく普及した製品だが、日本でやけどが相次ぐ背景には、欧米との生活環境の違いも。便利さや安全性を強調する同社だが、消費者側には事故のリスクが見えにくくなっている。(林勝)

 やけど治療で実績のある練馬光が丘病院傷の治療センター(東京都)の夏井睦(まこと)医師は五月、自らのホームページ「新しい創傷治療」で、電気ケトルによるやけどの症例を紹介し始めた。六歳六カ月、十一カ月、一歳七カ月…。幼い子どもたちが負った痛ましいやけどの写真が並ぶ。すべて、転倒で湯が漏れ出るティファール電気ケトルとその類似商品による事故だ。

 同センターに五月までの半年間で新たにやけど治療を受けた患者は百六人。うち十一人がティファールか類似商品が原因。電気コードに体を引っ掛けるなどして倒れたケトルから漏れた湯でやけどしている。転倒しても湯が漏れにくいロック機能がある同社の別の電気ケトルや他社製品による症例はなかった。

 「倒れたら必ず熱湯が外に出るのは、構造的な欠陥」と夏井さん。こうした問題点を消費者庁は三年前に公表。それでも事故が後を絶たず、昨年十一月に一般向けの注意喚起と合わせ、安全策の有無が消費者に分かりやすいよう、表示の工夫や拡充を企業側に求めた。

 ティファールの取扱説明書には「(転倒で)湯が流れ出て、やけどをするおそれ」とあるが、本体には注意を促す表記はない。同社ホームページでは、転倒によるやけどの注意表示は個別の商品に対する目立たない記述のみ。それに比べ「火を使わないから安全・安心」と大きくPRし、やかんと比較した別の視点の安全性を強調。子どもが水を入れて操作するCMも公開している。

 同社は「消費者庁に了解を得ている」と説明。「消費者から、こぼれた湯での乳幼児のやけどに関する問い合わせは今までにない」と答えた。消費者庁の担当者は「現在は小さな表示ながら湯漏れ防止機能があるかどうか、一応識別できるようになっている。ただ、今後も事故が続くようであれば、何らかの対応を考えたい」と話した。

 患者を診てきた夏井さんは「(商品の比較検討や安全構造に疎い)患者や家族は、事故が特定の欠陥で起きたものなのかは分からない。使い方が悪かった、運が悪かったと考えてしまう」と指摘。「クレームがないから問題ない、ということにはならない」と企業の姿勢を批判する。

◆欧州では問題なく普及

 ティファールの電気ケトルは国内で二〇〇一年から普及し始めた。グループ本社はフランスにあり、欧州の販売実績がある。〇二年から五年半、ドイツで生活していた研究者の女性(39)は「向こうの人々の生活環境では、電気ケトルの転倒による危険は全く感じなかった」と言う。

 電気ケトルは、たいてい調理台の定位置で使われる。調理台が高く奥行きも深いので、幼い子どもの手は届かない。日本に比べて家庭用の電圧が高く、湯が沸くまでの時間が短いので、その場を離れることも少ない。

 また、欧州の水道はミネラル分を多く含む硬水で、何かに湯をためておくとすぐミネラルの結晶で汚れてしまう。このため、湯を必要に応じて沸かし、その場で使い切るのが普通。日本の事故例のように、電気ケトルを床に置き、湯を沸かしたままその場を離れる状況はまずない。

 女性は「欧州の家電開発者は、日本でやけど事故が問題になっているなんて、理解できないと思う」と話している。

 

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